吾人の始まりは、そうアミュレットであった。

 吾人を創り出した人は、一応魔術師であったな。魔力は下級冒険者をやっていくには足りるが、中級や上級に進むのは難し奴だった。魔力自体は修行と供に増加するが、奴は魔術の選択が悪いというか、とろいと云うのか……。荒事には向いていない奴だった。名前は、そう……ボリスだったか。

 魔術師なんて名乗っている以上、普通は黒魔術__攻勢魔術ができてこそ。ボリスは攻勢魔術がとことんダメだった。だから奴の親しい友人なんかには『へっぽこ魔術師』なんて呼ばれとったな。

 へっぽこだろうが、人間生きて行くには色々と吾人と違って必要なのだろう? 方便(たずき)は重要な要素だ。ボリスにも、特技があった。

 それは____護符作りだ。

 護符が何たるか、知っているか。簡単に申せば、《祈り》である。幸いあれ、禍よ遠のけ。未熟な者が作れば、単なる気休めにしか過ぎぬが、才能ある者が作り出せば、それは災厄を払いのける加護へと変わる。

 ボリスは意志ある護符(インテリジェンス・タリスマン)の製作に心血を注いだらしい。朧げな記憶で、『やっとできたー! いやー、これで僕の六年が報われたね!!』と叫んでいるのを覚えている。人間の赤ん坊と違い、記憶するだけであるなら、初期から持っていた機能だ。

 そもそもポリスが護符に意志を持たせたかったかと言えば、利便性の面があった。

 ちゃんと効力のある護符というものは、その寿命は極めて短い。具体的に申せば、災厄が一度降り注げば、自壊して守る。そのために金持ちの商人や貴族、懐に比較的に余裕のある中級以上の冒険者ぐらいしか持っていない。逆に大きな災厄を受ける器がないようにし、長く使えるように工夫されたものもポリスは以前に作ったようだが、売れ行きはよろしくなかった。両方の側面に対応できるように、護符自体に意志を持たせるのはどうか、と発想したらしい。

 他にも『意志があるなんてロマン』と言っていた気がする。そう言えば奴は『星銀の勇者と聖剣の冒険』というシリーズが愛読書であったな。この小説は主人公の持っている聖剣が軽快な口調で喋っているそうだ。

 …………もしかして、後者の方が本命か……? いや、まさかな。

 ポリスの試行錯誤で吾人は生まれたものの、意志を宿すにはそう……人で例えるのならば幼かったのであろう。赤ん坊がいきなり立ち上がり、『天上天下唯我独尊』と宣うなどほぼあり得ない事である。ぼんやりと吾人はポリスを観察しながら、過ごしていった。





150708 なろう掲載
160508 転載



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