喫茶店の朝

俺がバイトしている喫茶店の朝は今日も早い。
俺はこうして喫茶店のオープン一時間半前から準備をしている。昔は起きれなかったこともあったが、いまではもう慣れた。
まだ店はクローズだが、上部の窓を開け放った店の中には爽やかな朝の空気が漂っている。

そんな店の中に俺に叩き起こされた店長はあくびをして服を着ながら入ってきた。俺はそんな店長をオムレツを作りながらジト目で見る。
均整の取れた身体を見せつけてくる店長は髪は寝癖で跳ねているし無精髭だって生えている。なのに、無駄にかっこいいからかそんなものすら様になっていて、なんだかムカついた。
俺に見られていることに気づいたのか店長は俺に微笑んだ。

「今日も目覚めがいいよ。朝から愛する君の食事が食べられるんだからね。それに、エプロンやっぱりにあってるね。食べてしまいたいよ……」

うっとりと気持ち悪いことを言う店長に俺は砂を吐く気分だった。本当に気持ち悪い。

「店長……ちゃんといつも起きてくださいよ。店長の自覚を持ってください」

「もってるよ? 俺を起こしにくるのは君の仕事だし、ちゃんと上司としてのセクハラはかかさないしね」

にやけづらの店長の言葉に俺はため息をついた。わざとやっていることはわかりきっていたけれど、やっぱり朝されたことを思い出すと店長をはたきたくなるのだ。

「店長、それは自覚じゃなくて公私混同。そしてただの迷惑行為ですのでやめてください」
出来上がったオムレツを、既にサラダを盛り付けてあった皿に乗せ、コンガリやけたトーストと冷たい牛乳を出すと、おぼんにのせてテーブルまで運んだ。

ありがとうと微笑まれ俺は軽く頭を下げて店長の隣に座る。

「でもなんだかんだいって、君はいつも俺の要求に応えてくれるじゃないか」

店長はサラダを食べながら俺の尻をなでて、俺はそんな店長の手を思い切り叩いた。

「食事中にマナーが悪いですよ」

「やだ、昨日はあんなに激しかったのに〜」

くねくねと店長は身をよじらせた。気持ち悪い。というかウザすぎるこの人。

「俺、昨日店長となにかやった記憶なんてないですけど」

「君がかわいくおねだりしてくるもんだから何度もしただろ?」

店長の言葉に眉をひそめて、記憶を手繰ると一つだけ心当たりがあった。だとしても分かりにくい言い方をしないで欲しい。

「あー…あれは連敗してムカついたからですよ。そもそも高校生相手にいい大人がオセロで連勝して楽しいんですか?」

「え? 君に勝つのはすごく楽しいよ」

トーストを頬張りながら店長は笑んだ。食べている店長はこの世で多分一番幸せそうな顔をしている。だからもう起こる気もなくなってしまった。

俺は店長のフォークを奪うと、オムレツをすこし切って、店長の口元に差し出した。

「店長、あーんしてください」

「ん」

俺に差し出されたオムレツをパクリと食べた店長は本当に嬉しそうな顔をして、俺からフォークを奪うと俺にオムレツを差し出した。

「あーんして」

「……俺は、いいです」

恥ずかしいから。自分がやるのはよくても、相手にされると流石に抵抗があるのだ。
不公平だとはわかっていても、甘やかされるのは嫌いだ。甘やかすのは大好きだけど。

「えー……つれないなぁ」

店長は諦めたのか残念そうに自分の口にオムレツを放り込んだ。俺は何となく店長の頬をつつく。

「ねえ、食べにくいよ」

「そうですか。そうですよね。でもやめません」

「かまってほしいならそう言えばいいのに」

俺は思い切り店長の頬をつねった。店長の口からオムレツのかけらが少しだけ零れ落ちた。

俺が手を離すと、店長は急いでオムレツを飲み込んでこちらをむいた。少し涙目だ。
この表情を可愛いと思ってしまう時点で俺は店長に骨抜きなんだという自覚が芽生える。最初から気づいていたけれど。

「なにするの……全く、困ったくんだな、君は」

店長は俺の髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。せっかく短いなりにセットしてきたのに、これじゃあ意味がない。

「やめてくださいよ」

「やめないよ」

店長は色っぽくえむと俺の口を塞いだ。軽いキス。舌は流石に入ってこなくてホッとしたけれど、これはこれで恥ずかしかった。

「ごちそうさま」

店長はペロリと俺の唇を舐めた。ふと、テーブルを見るともう朝食は食べ終わっていたようだった。

「今日も美味しかったよ、ありがとう」

そういって俺の額に唇を落とすと店長は立ち上がった。


俺がバイトしている喫茶店の朝は早い。でも、それは俺がはやく来すぎているせいもある。好きな人と一緒に過ごす時間が増える、そんなことがとても嬉しいのだから。





おわり


.........……………


アトガキ

久々のBLです。そして久々の明るい話です。
店長×バイトくんのお話でした。





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