ゆるやかとしずか

朝、電車に乗ればがらんどうな車内にぽつりとひとりで座る彼の姿なんてすぐに見つけることができる。
「しいくん、おはよ!」

「…おはよ」

私が声をかけた相手は、私を一瞥してからまた手元の本に視線をおとした。

「今日はなによんでるの?」

無言で私に背表紙を見せた。私にはわからない歴史小説だ。難しいそうな活字が並んでいる。

本がわかればまだ話が続いたのに。もっと話したかったのに…。

私は少しがっかりして彼の隣に座った。
電車の座席が小さく沈んで隣の彼はすこし驚いたように私をみて、また本に関心を移した。

彼の隣でながれる時間はとても緩やかで気持ちいい。優しい雰囲気がするのだ、多分。

朝の日差し、鳥の声。

電車の音、空の青。

「…しお」

彼が私の名前を呟いた。

彼の方をみると、読み終わったのか本は閉じられていた。

「はい?」

「なんで、この電車にいるの」

「…会いたかったから」

静かな車内に緩やかな時間。

私が行きたかった方向と反対に向かって行く電車。

だけど、この電車がよかった。

しいくんがいる場所に行きたかったから。

「しいくんがいる場所へなら、私はどこにでもいくよ」

「いいからしお、戻りなよ。今なら学校間に合うからさ」

「やだよ」

「…俺だってさ、しおと一緒にいたいさ。だけど、無理だろ?」

「だから、一緒に、いくんだってば!」

「しお、小説の読みすぎだよ…」

にがわらいする彼の肩を私は強く叩いた。

「わたしは、しいくんについていたいだけなんだから、別にいいじゃん!」

なだめるように頭を撫でられて、その手すら払いのけた。

「しいくんのばか! わたしの気持ちも考えてよ…」

「はいはい…ったく今日だけだからな?」

ため息をつきながら笑う彼に私も笑顔になった。

「明日は学校ちゃんと行くんだよ? あと、兄ちゃんのことは兄ちゃんって呼びなさい」

「うん! お兄ちゃん、大好き!」

わたしは、ランドセルを揺らしてしいくん…椎谷兄ちゃんに抱きついた。
















あとがき

お兄ちゃんがほしいです。

大学生のお兄ちゃんがいる小学生の妹設定だったのです。

大学生のお兄ちゃんが一人暮らしはじめて、さみしくなった妹が電車は知ってるので会いに行ったおはなしでした。


ここまで読んで下さりありがとうございました。





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