Buono!!!!

「夏の暑い日に食べるジェラートは最高だよね」

汗っかきで小太りの男は、カウンター席でラズベリー味のジェラートを頬張る。幸せそうな顔だ。はじめてうちの店に来たのに、気に入ってくれたようだ。

「ああ、最高さ!もっと食ってってくれよ。真夏に冷たいジェラートを食べないようなバカはいないさ」

俺がカウンターの中から話しかけると、小太りの男ははにかんでミルク味のジェラートを追加注文した。グラッツェ。こちらも笑顔でジェラートを出す。

この店は、父の代からはじまったからそこまで歴史なんて深くはないが、まあ町の人にはご贔屓にしてもらっているジェラテリアだ。海の近くにあることもあって、とても景色がいい。立地は最高だ。
いつもは父が店を切り盛りしているのだが、今日は父に用事があるらしく俺が店頭にたっている。
いつかは継ぐ店だ。それに、ジェラートを食べる人たちの顔を見るのは好きだから、自分でもこの仕事は天職だと思っている。
父さん手作りのジェラートは俺がいうのも恥ずかしいけれど、かなりおいしい。だから俺だってこんなジェラートを作れるようになれたらいいなんて思っている。

ドアにぶら下げているベルが鳴り、新たな来客の訪れを告げた。

「ボンジョルノ、アニータ」

ドアを開けたのは、赤毛のクラスメイトだった。最初は留学とホームステイでアメリカから来ていた彼女は、今はイタリアに住み着いていた。イタリアのこの不思議な雰囲気が好きらしい。
あと、俺と付き合っているってことも言っておかなければいけない。
ただ、結婚する気はなかった。それは北イタリアでは普通のことで、彼女と俺が話し合って決めたことなのだけど。

それにしてもアニータはずいぶん涼しそうな格好をしている。あんな薄着で逆に寒くはないのだろうか。室内はクーラーがとてもきいているというのに。
彼女は誰かを探すように青い瞳をを店内に巡らせた。人と待ち合わせでもしていたのだろうか。

「ボンジョルノ、バジーリオ。今日はおじさんはお休みなのかしら」

アニータは僕の父さんを探していたらしい。俺は肩を竦めてアニータにカウンター席を勧めた。ジェラートに夢中な小太りの男の隣の席だ。アニータは素直にそこに座って頬杖をついた。

「用事があるんだってよ。アニータ、今日は何食べる?」

「アーモンドミルク味」

アニータはいつも頼む味を頼むと、ため息をついた。

「おじさんがいれば女の子にはサービスしてくれたのにな…」

アニータの言葉に俺は少し苦笑した。父さんは女性客にはサービスすることが多い。しかも大盛りに。まあ、それが父さんのいいところだなんて思うのだけど。

「世の中そんなジェラートみたいに甘くはないってことだ…はいよ」

「まったくね…」

アニータは出されたジェラートを素直に受け取ると、スプーンで口に運んだ。幸せそうに笑顔を浮かべる。

「でも、やっぱりおじさんのジェラートは最高ね! 頬がとろけちゃいそうだわ」

アニータは喜々として言った。身内が褒められるのはとても気分がいい。それに、俺は父さんのジェラートを誇りに思っているのだ。

「そうだよな! ここのジェラートは最高だよな」

小太りの男が幸せそうに言って、それからまたジェラートを追加注文した。今度はオレンジ。彼は本当にジェラートが好きみたいだ。

「食べすぎると腹壊すよ?」

「なあに、こんな丈夫そうな体が壊れるわけないだろ」

「そうね、それにきっとジェラート以上のクスリはないわ、パパ」

「パパ!?」

小太りの男はニヤリと笑った。

「あら、言ってなかったの? パパ」

アニータは少し呆れた顔でいった。全く知らなかった。
言われてみれば少し似ている気がする。髪が赤いところとか。
……いや、気づかない程度には似ていないのだが。

「ボンジョルノ、バジーリオ。アニータの父親のヘッリだ」

握手を交わすヘッリは少し意地悪な笑みを口元に浮かべていた。多分知らせずにして楽しむつもりだったのだろう。

「アニータの家族はアメリカにいると聞いていましたが…」

「ちょっとした旅行だよ。イタリア語は昔イタリアにいた時期があったからなんとかなった。君に気づかないとは思わなかったよ」

「どう? うちのパパとてもイタリア語上手いでしょ」

上手いというか、旅行だなんてわからなかったレベルだ。こういう人もいるんだなと少し感動を覚えてしまうレベルには。

「アニータから君の話を聞いた時は驚いたよ。よもや、うちの娘を留学先で奪って行かれるなんておもってもみなかったからな」

ヘッリは少しだけ威厳のある顔をすると、オレンジジェラートを口に運んでニンマリと笑った。

「これからもうちの娘をよろしく頼むよ。あと、ジェラート美味しかった」

ヘッリは代金をカウンター席に置くと、立ち上がった。

「良かったわ、バジーリオ。これで心置きなく一緒にいられるわね」

アニータは笑うと、ヘッリと腕を組んで店から出て行った。

「やってくれるよ、全く」

苦笑いしながらカウンターを片付ける。でも、ヘッリにもし、ジェラートが気に入ったのならまた来てほしい。だなんて、言いそびれたのを少し後悔して俺はまたアニータ伝いに話をしよう、なんて思ったのだ。





夏とイタリアとジェラートの話。
タイトルは美味しいって意味です。
蜜月様提出。




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