欠陥フィロソフィー

※すこし下品でグロ。




草木も眠る丑三つ時、なんて言葉があるが、眠れないのは人間くらいなんじゃないかと俺は思うのだ。
ただ、ここは西洋。そんな言葉がない場所なら、それは普通なのかもしれない。


「マサト、なに考えてるのさ。彼女のことでも考えてるの?ウザイよ??」
「うるさいな。静かにしろよ、メリ」

メリアは不機嫌そうな顔で頬杖をついてため息をついた。
夜は3時。丑三つ時に仕事なんて、過保護なうちの母さんが聞いたら卒倒しちまうんじゃないか。まあ当然、ミリアが不機嫌なのもこのためだ。

この仕事を請け負ってきたのはジローだ。なのに本人はここにはいない。ノエリア嬢にでも会いに行っているのだろうと推測すると、恨めしくなってきた。

「どーせノエちゃんに会いに行ってるんでしょ? あーあ、なんであんなのがいいのかわかんないね。メリの方が絶対美しいのにさぁ。」

そういってメリアは少し長めの前髪を弄くった。
メリアはどこに行っても浮く。確かに外見は綺麗だ。俺も、最初あった時はこんな人がこの世に存在していいのかと思ったほどだ。……今は、別の意味でそう思うのだけれど。メリアは性格面がもう歪みに歪みまくっている。こんな可愛い奴なのに、幼い頃に何かあったのだろうか。何もなかったのならきっと頭が異常なのだろうな、俺と同じで。
そんな風に思いを巡らせていると、屋敷に明かりが灯った。

「メリ。行くぞ」
「わかったよ、マサト。一応日本語わかる人いたらまずいし、マリって呼ぶよ 。あと前回みたいにヅラとって暴れたら容赦しないからね」

メリアは鋭く睨む。今回の任務は簡単だ。女好きの金持ちを暗殺すること。
そして女好きの金持ちの元に潜入するには、やっぱり女装が一番なのだ。
ジローの女装は綺麗だし、メリアはそもそも性別がわからないからどっちでもいける。
ただ、いつもは頭脳労働専門の俺は女装慣れしてない上に、綺麗な裏声がでない。前回やったときは太ももを触られたあたりでキレた。

「つーかあの金持ち、最終的に殺すんだろ?だったらいいじゃねーか。キレて切っても」

「ダメに決まってるでしょ。前回みたいにはいかないんだからさ。今回はジローのアホがいないんだよ。あいつがいなきゃ流石に屋敷の人全滅はできなかったでしょ。今回はしっかりと、こっそり、殺すんだよ!」

そうだった。前回は、俺が暴れた後の処理は一通りジローがやったのだった。あいつがいなきゃ、かなり不便だということを少し思い知った。

「あいよ…わかったよ。まあ今回は俺が呼び出されたってことは元々拷問込みってことだしな。一晩かけてゆっくりあいしてさしあげればいいんだろ?」

「そうそう、天国に昇るようなひと時を、ね?」

「まあ、その後本当の天国にのぼっちまうんだけどな」

ニヤニヤと趣味の悪い笑みを浮かべて、俺とメリアはドレスをゆらして屋敷へと突入して行った。


「ようこそ、わがパーティへ」

屋敷にはいると、初老の人の良さそうな紳士が微笑んでいた。今回の標的はこいつだ。暗殺されるとなると、こいつもいろいろと悪いことをしてきたのだろうか。まあそもそもこんな夜中に怪しげなパーティーを開いている時点で悪人決定だと思うのだが。

「はじめまして、ブロシャール様。お呼び頂き光栄ですわ。私、メアリーともうしますの」

はじめて聞いた標的の名前を頭の中で反芻した。…よし、覚えた。
屋敷の中はガランとしていてもとから人をはらっているようだった。大広間に俺とメリアとブロシャール氏しかいないのは、すこし異様な状況だ。

「そちらの女性は誰かね?」

ブロシャール氏は首を傾げて言った。多分一人しか誘っていなかったのだろう。メリアは、誘われるってのはあり得ないから誘われた人と偽って潜入しているのだろう。こいつが誘ったのは多分売春婦だ。顔を知らないような女と一夜を共にするなんて馬鹿げてる。


「この子は、私の知り合いのマリです。フランスにきて間もないのですが、私のことがだいすきらしくて、私から離れられないみたい。」

むかついたので、ドレスのすそをつかむように見せかけて、腕の皮膚を引っ張った。そんな説明をされるいわれはない。

「そうか、だったらいいのだよ…マリ、よろしくな」
紳士然としたブロシャールと握手をする。すこし手が汗ばんでいて気持ち悪い。帰ったら手を洗おう。

とはいえ、ここにメリアと俺以外の人がくる予定はなさそうだった。机の上には二人分の食事しか並べていない。
だったら、楽にいけそうだ。
メリアを小突くと、メリアは笑顔でうなずいた。

「どうしたんだい?」

「いいえ、はやくベットに行きましょうよ」

「食事はいいのかい?」

なにがはいっているかわかりやしない食事なんて食べるわけにはいかない。

「だめ…? 早くベットに行きたいな」

すがるようにメリアはだきついた。目には涙をうっすらとためて、頬は紅潮させている。ブロシャール氏は確実にあとでひどい目に合うことが目に見えた。メリアはたとえ自分から媚びても、相手に媚びることが大嫌いだ。

「あ、ああ。そうだな」

すこし下衆な表情になったブロシャール氏と、メリアのあとについて仕方なく俺はベッドルームにむかった。




そこからは簡単だった。

「おい、自分の企業の情報をライバルの企業にうってたんだろ?あんた」

ドスの効いた声を出す俺と、仁王立ちになって腕を組んで睨みつけているメリアの前には、ぐるぐる巻にされたブロシャール氏が転がっていた。

「し、し、知らないって…」

「成金のくせにこんな豪華なベッドルームはねーだろ。明らかにお前何かやってるよ。日本で言ったら部長クラスなのによ…あんた諦め悪すぎるだろ」

「ひっ……メアリーっ」

往生際が悪すぎるブロシャールは、メリに助けを求めはじめた。

「何なの?死にたいの?でもねえ、今はねメリが殺しちゃダメだって言われたの。さっさとはいちゃいなよ。そしたら楽に死ねるからさぁ」

メリが笑顔で言い切るさまは、まさに悪魔だった。

「あんたの味方なんてどこにもいねーんだよ。はやくはいちまえよ」

やさしく言っておく。言っておくが、俺の手には小さなナイフが握られている。元から用意して置いたものだ。
案の定口を割らないブロシャールに俺はとても優しく微笑んだ。
ああ、もう本当にうれしい。こいつが口を割らないでいてくれるおかげで、久々に拷問できるんだから。

俺は容赦なく、ブロシャールの薬指にナイフをつきたてた。食い込むナイフと溢れ出す血。ブロシャールの悲鳴が上がる。
薬指はポロリと落ちた。ああ、でもまだまだだ。
次は手首につきたてた。楽しすぎる。小さなナイフでは切り落とすのにも時間がかかる。なにより、骨が邪魔だ。
悲鳴をあげて悶え苦しむブロシャールの体と腕は、しっかりとメリアがおさえてくれている。安心して手も切り落とした。
「ね?はやくはいちゃいなよ。マリちゃん、欠陥した体を見ると興奮しちゃうんだからさぁ…。おじさん、掘られちゃってもいいの?」

「俺は男には興味はねーよ」

「でも、かけたものは大好きじゃん」

「おう…まあ、せいぜい楽しませてもらおうかな」

ニヤリと笑うと、ブロシャールはたじろごうとした。しかしメリアに抑えられていてはかなわない。ブロシャールの手の切断面をグチャグチャとナイフでかき回すと、また反吐の出そうな悲鳴を上げた。

「次は何を切るの?」

「次は耳かな」

「やだぁ〜そんなことしたら質問すら聞こえなくなっちゃうんじゃない?」

「別にいいんじゃね?こいつ話す気なさそうだからさぁ」

「や、やめてくれ…はな、はなす、はなすよ!!!」

悲痛に満ちためで懇願してくるブロシャールの耳を勢いよく削ぎ落とす。あたりにひろがる大量の血このままだと失血死してしまうかもしれない。

「仕方ないな。聞いてやるよ。早く話せよ」

無表情で言い切ったメリアもまた、俺と同じことを考えているようだった。
最近拷問系の仕事がなかったためかすこし調子に乗りすぎたようだ。

ブロシャールはたどたどしく自分の悪事を認めると、そのまま事切れた。
一応録音は出来たのだが、やっぱりやりすぎたようだ。仕方ない、一応言質が取れただけよしとしよう。

「マリちゃんは手加減しなさすぎだよ。ジローみたいに骨ぼきぼきおるのもどうかと思うけどさぁ」

しょんぼりとした顔でメリアはつぶやいた。自分が痛めつけることができなかったのが残念だったらしい。

「しかたねーだろ。これが俺のスタイルだ」

そう言い切ると、俺は黒いビニール袋に適当にブロシャールを入れた。メリアは、証拠が残らないように床板と絨毯を外して変えている。
指紋も厄介だが、それより厄介なのが血液検査だ。一応、血液検査された時に反応がでないようにしておかなければ「失踪」扱いにはできない。

「全くだよ。まあ、今度はトドメはメリにささせてね?」
笑顔でメリアは微笑むと、絨毯と木屑をもう一つの黒い袋にいれた。


ブロシャールの死体と廃棄物はニカのところに持って行った。廃棄物はともかく、死体をニカがどうするのかは知っているので、なんとなく可哀想だった。あのおじさん、まずそうだし。

「マサト。今のところもう一回」

木漏れ日が差し込む教室で、俺はメリアと楽器の練習をしていた。明後日テストなのだ。たとえ深夜に仕事があったとしても、絶対練習は欠かせない。
しかも今日は俺らの中で一番うまい、バイオリンの子が休んでいる。とりあえず二人で合わせようということになったのだが、やっぱりうまくいかない。

「なんだよ…やっぱりリコリスがいなきゃうまくいかないじゃないじゃん」

「リコが明日復活するまでに、絶対メリたち二人で完成させなきゃっておもわないの? マサト、頑張ろうよ」

とはいっても、バイオリンがいなきゃやる気がでない。三人一組でカルテット、バイオリンは欠かせない存在だ。メリアはため息をつくと、ビオラを腕に抱えた。

「そういえばさ、ジローが仕事ありがとうって。金は振り込んどいたっていってたよ」

「おう、ありがとうって伝えといて…てか、べつに例なんて言われなくてともいいんだけどな。俺だって趣味でやってんだからさ」

メリアはクスクスと笑う。

「そうだね、ジローもマサトも逆に仕事ないと犯罪者なんじゃない? あ、この仕事自体犯罪だね」

そうだ。俺も、ジローも、特殊なのだ。その点、メリアの方がまだましだ。俺たちは、こういう職業をしなきゃ気が狂っちまう。いや、きっとすでに狂っているのかもしれない。

生まれ落ちた時にはすでに、こうだったのだ。人を傷つけなければ生きていけない。だからこそ、俺には仲間が必要だった。
自分の性壁をごまかすように留学してきた。その先で、メリアやジローといった仲間と出会えたのは奇跡みたいなもんだ。

「なあ、久々に手慣らしに二重奏曲でも引いて、また練習しないか」

「いいアイデアだね!」

メリのヴィオラと俺のチェロ。

バイオリンがかけていて三重奏がでかない二重奏。

ただ、欠陥しているのもたまにはいいんじゃないか、なんて思うのはきっと。













欠陥哲学。
欠陥したものにたいする、欠陥した哲学を。

初のメリアと真里登場です。
悪魔コンビ、もっとたくさん活躍させていきたいと思ってます…!!




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