04



「お名前を教えていただけませんか?」

時間がたち落ち着いた私は言った。

佐助さんはデジカメが気に入ったようで、正前で私が泣き止むのを待つ際に片時も離さなかった。
紅い人は隣に座り、名前殿泣かないでくだされぇ!と必死に頭を撫でてくれた。(見間違えでなければつられて泣いているように見える)(いい人すぎる)


きょとんとした顔をして彼らは私を見ている。
どうやら空気を読めなかったようだった。
しかし、今聞かなければ。


「ああ、そういえば。失礼したね。
俺様は猿飛 佐助。佐助でいいよ。よろしく、名前ちゃん」

右手を差し出されたので、恐る恐る握る。

「よろしく、お願い、します、…佐助さん」

まだ、慣れない。というか恐怖感が拭えない。
こっそり佐助さんをみると佐助さんは、あはー、とあの時では考えつかないくらいフレンドリーな調子で、手を握り返してくれた。
よし、怖くない怖くない。
へらりと笑い返す。


とそこへ、

「そ、某は、真田源二郎幸村と申す!よろしく頼むでござる名前殿!!」

隣側にいた真田さんが吠えた。
佐助さんの手がパッと離れる。
私は真田さんの方に向き、座り直す。

「はい、よろしくお願いします。…えっと真田さん?」
「どうか幸村とお呼びくだされ!!」
「それでは遠慮なく」


幸村さんに右手を差し出す。
幸村さんが、固まった。
「幸村さん?」と呼んでも答えない。
じっと幸村さんを観察する。
手を凝視しながら眉間にしわを寄せ口をへの字に曲げている、どうやら悩んでいるようだった。
なにに?
この行き場を失った右手にだ。
もしかしたら、握手は嫌いなのかもしれないと悟り、手を引っ込めようとした。
すると、意を決したように幸村さんは顔を真っ赤にして俯きながらも、力強く両手で握ってくれた。
力強すぎて、痛い気もするが、我慢だ。

「よろしくお願いしますね、幸村さん」

幸村さんの顔を見据えてへらっとまた笑う。
一瞬目があったがそらすように彼はまた俯いた。

すると生暖かい視線を感じて
視線を追えば、佐助さんが、手で口元を覆って感極まってとても嬉しそうに、いや微笑ましく、私たちを見ていた。
「旦那が、あの旦那が…!!」とか聞こえる。
一体何事だ。


そうした状況が1分くらい続いている。
既に右手は悲鳴をあげはじめていた。
しかし、右手が離される気配がない。
どうしたのだろう、と不議に思って、俯く彼の顔を覗き込む。
すると、

「名前殿!!」

でかい声で呼ばれ、「はいぃ!!」と条件反射で間抜けに返事をしてしまった。
右手を両手で握ったまま、顔を上げ、名前を真っ直ぐに見据えた彼は言った。

「某、名前殿に合わせたい御方がおられる!」
「…………はい?」
「ついてきてくだされぇえええ!!」

パッと右手が開放されたかと思えば、幸村さんが開け放たれたままの襖をわざわさ蹴破って、ドタバタと廊下を走り出した!


「え、ちょっ!幸村さーんっ!!」
「あちゃー、旦那ってば限界だったみたいだねー。」
「限、界…?」
「そ。」
「追いかけなくても…?」

遠くから、うおおおお!と幸村さんの雄叫びが届いた。

「大丈夫、大体予想つくから。
それはさておき、名前ちゃんはお着替えしなきゃ」

いまの服装はこの時代ていう寝間着だと気がつく。これで誰かに会うなど出来ない。
確かに着替えなければ…!


襖が蹴り破られた部屋の隣の部屋に移動して、ふと思い出した

「……あ。そういえば、私の事を着替えさせたのって?」
「………………あはー、ごめーんね☆」
「…あぁ、ぇ、?」

なんてこった……!
理解したとたん血が頭に上っていく。


「大丈夫。あんまり見てないから」
「…っなんで!」
「いやー、あの格好だと下手に女中に見せられなくてねー。」
「…お嫁、に、行けない…!」
「名前ちゃんなら大丈夫でしょ。
あ、因みに。俺様は名前ちゃんくらいが好み」


なにが好み?と疑問が一瞬よぎった。がそれどころじゃない。

「!!いあぁぁぁぁっ!」

見られた!見られた!!見られた!!!
お嫁にいけない!なんてことじゃなくて貧相な体を見られた羞恥心。
ぼんっきゅっぼんっ、は夢のまた夢で現実はずどーん、だ。
ケラケラ、佐助さんは笑う。

「さーて、お着替えお着替え。今度は女中さんがやってくれるから安心して、ね?」
「ううぅ…!」
「それと、荷物は預かるね。着替えに邪魔だろうから」
「大事にしてくださいよ…!」
「はいはい。
じゃあ、俺様先に行くね。名前ちゃんのこと、報告しなきゃいけないから!
迎えをよこすから終わったらここで待っててねー!」


と佐助さんは鞄を持ってから歩いて普通に立ち去った。
入れ替わりで「ご案内致します」と女中さんが、着物をもってやってきた。
着物は鮮やかな赤色の牡丹が散りばめられた、素人の目でもわかるほどの高級品だった。
(着ても大丈夫なのだろうか、恐ろしく不安になる)

着替える間、佐助さんが誰に報告するのか、羞恥心に駆られた私には気にする余裕はなかった。
(畜生、見られた…!!)



*


「終わりましたよ」
「あ、有難う御座いました!」
「いえいえ、当然のことをしたまでですから」
「それでも、本当にありがとうございました」
「ふふふ、よくお似合いですよ!」
「あ、ありがとうござい、ます。」

正直、慣れないから照れる。
言葉もロクに浮かばない。
女中さんは楽しそうに私をみた後、襖を一瞥すると「幸村様、お待たせ致しました。」と言った。
「うむ、ご苦労であった」と幸村さんの声が間髪入れずに襖越しに聞こえる。

「え!?」

小さく声を漏らす。
迎えをよこす、と佐助さんは言っていた。
が、まさか幸村さんだとは思わなかった。
驚いた。
彼が静かに訪れたことに驚いた。
一体、いつからいたのだろうか。



「それでは、行ってらっしゃいませ」と女中さんにストールのようなものを肩に掛けてもらい、襖を開けられ退室を促される。
そろりと冷えた廊下へ出ると、赤い、えんじ色の着流しと、白い羽織を羽織った幸村さんが私に背を向けた状態で立っていた。
その後ろ姿はそわそわしたように落ち着きがない。


「…幸村さん?」
「!名前殿、」

ばっとこちらを向く。
尻尾のように括られた髪が、揺れた。

「ごめんなさい、寒かったですよね。
お待たせいたしました。」
「…………!!」

また、固まった。
何事だ、これは。
幸村さん?、と声をかける。
一拍おいてから「なんでもござらんっ!!そ、某、実は今来たばかりでござる!」と、少し挙動不審な行動をとりつつ答えた。
「そうですか」と答える。
彼はうむ、と力一杯頷いて俯いた。
一拍。
「それよりも、名前殿」と俯いたまま話を切り出した。


「はい?」
「その、某に、ついてきて下され」
「え、…あ。はい」
「先ほども、申したように、会っていただきたい方が、いるのだ。
…今度こそ、案内をするでござるよ!」
「はい、お願いします」

彼は進み出す。
私は彼の後に続く。





きみと、恥ずかしい。




(彼女は泣いた)
(そして、惜しまず笑った)
(その顔といったら、)


*20090128




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