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気がつくと私は流されながら生きていた。
まわりに合わせ、波をたてないように、ふわふわ漂いながら地味に地味に生きていた。
それはとても楽で、いつまでも布団の中にいつまでも瞳を閉じて潜っているようだった。口を開かず目を閉じて寝たフリ、それに私は満足していた。
それでも時々、主張をしなさすぎる私を親や先生は心配していたけれど、私は目と口を閉じて寝たフリを続けた。
でも高校に入学してから、友人たちはだんだん布団からはいでて身支度を始めた。なりたいものやりたいものを主張しはじめた。そのときひとりにねぇ、名前は?と聞かれた時に少し考えてなにも浮かばなくて、いつもみたいに曖昧に笑って誤魔化した。それからなんとなく私の主張が気になった。けれど流され過ぎて私の主張は見えなくなった。
布団の心地よさにまた意識は朦朧としていた。起きなければいけないけれど、まだ寝ていたいと夢と現の間をさまようように。


どうしよう!
眠ればきっと夢は見ることができるよ!でも起きたとき私はそれを覚えているかしら?覚えていても、いつの間にか忘れてしまわないかしら!?というか寝ることで遅刻してしまわないかしら!!?
あぁ、どうしよう!!!



「では、決めなくてはならぬ」



言葉が私のなかの靄(もや)を取り除いていく。


寝ることで夢を見てもいいの?忘れてしまうかもしれないわ。遅刻をしてしまうかもしれないわ。怖い怖い。なにをするべきかわからない。



「わからぬから、決めるのでござる。明日の予定や、食べるもの、なりたいものも、気持ちも、自分のことは全部。」




私が決めてもいいの?忘れるかもしれないよ?遅刻するかもしれないよ?それって大丈夫、なのかな??




………。
「名前殿なら、大丈夫」




*


「夕餉ですよー。ほら、起きて。」

あれ。私、寝てた?

散々泣いてお菓子を食べて気づいたら寝てたとか子供みたいだ。

「佐助さん、」
「おはよー。ってやっぱり腫れちゃったか。しょうがない、今日はここで食べてもらうよ。終わったら目を冷さなきゃね。」
「ご迷惑をお掛けしてすみません。」
「気にしないで。ほら、ご飯覚めちゃうから。食べて。」
「あ、はい。いただきます。」


膳に添えられた箸と碗を持って手をつける。どうぞ召し上がれ、とうっすら笑みを浮かべながら言った佐助さんの影にお母さんがちらついたのは気のせいだと思いたい。

気をそらすように、キレイに盛り付けられた膳をみる。全体をみても魚や肉はなく、畑の肉が主菜の所謂精進料理といわれるものだった。そういえば、魚はともかく肉を食べ始めたのは江戸時代からだったけ。魚は保存が大変だし、たんぱく源はやっぱり大豆なのか。

それで親方さまや幸村さんはあそこまで筋肉が付くんだから、栄養バランスすごいんだろうなぁ。
是非とも参考に、と思って佐助さんをちらりと見た。


「?なぁに、おかわり?」
「いえ!おかわりは大丈夫です。」
「そう?足りなかったら遠慮なく言ってね。」
「はい。」


おひつを傍らにしゃもじを手にして言う姿は忍というよりやっぱりアレである。…だからといって栄養バランスとか知ってるわけないよね。反省。

「そういえば、佐助さん。」
「はぁい?」
「いま、デジカメ持ってます?」
「でじかめ…えーと?」
「赤くて薄くて光る小さい箱です。」
「あぁ!あるよー。はい、どうぞ」


どうもとお礼をいいつつそれを受け取る。…なんとなくで聞いてみたのだがほんとうに持っているとは思わなかった。たぶん気に入っているのだろうなぁ。

膳を写真におさめて電源を落とす。一連の動作を見ながら不思議そうな顔をした佐助さんがくびをかしげながらなんでごはん?といった。


「前にも思ったんですが綺麗に盛り付けられているなぁって。あと栄養バランスが全体的に高そうだったので参考にしたいなぁ、なんて。」
「…ばらんす?」
「えーと、つりあいがとれてるいいますかなんというか。均衡ですか?」
「いや、俺様に聞かれても困るなぁ。」


頬をかきながら笑って言われて確かに。と思う。普段使う英語の説明はなかなか難しいなぁ。

いつの間にか眉間シワがよっていたのに気づいていけない、とカメラを横に置いてまた食事を再開する。あぁ、おいしい。

「ねぇ、名前姫様。」
「はい?」
「おいしい?」
「はい。すごく。それがいかがしました?」
「…んーん、やっぱり何でもないよ。邪魔してごめんね?」
「べつに構いませんが。」


佐助さんは少しはみかむように笑って言葉を濁した。なんだったのかな、と考えてもしかして佐助さんが作った?なんて考えが浮かぶ。じっとご飯をみたあとに佐助さんをみるといつものように笑っていた。勘違いだったかな。もし考えがあたってたらほんとうにお母さんである。エプロン…はここにはないから割烹着か…違和感ないなぁ。

ふと一瞬聞こうかと思ったが言葉を濁し会話を切られた以上聞くのは野暮ったいし、やめておく。
栄養バランスについてものすごく気になるけど、帰ったら調べよう。もくもくとご飯を食べ進めついでに味についても調べようと思う。だってこんなおいしいんだし。和食いいなぁ。



きみと、



(作ったの俺様ーとか)
(栄養ばらんすについて教えてとか)
(いったらだめかな。)

*20100905

えらく久しぶり。
だいぶ書いてなかったからキャラがおかしくなってるかもしれない。(・ω・`)



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