その声。



※学パロ


幸村に放課後に残って欲しいと言われて、残った。
あいにく、部活動なることはしていなかったり。
あえて言うなら帰宅部というやつだ。
さて、今の状況は放課後に教室に、男女が二人。
これは普通、期待するシチュエーションなんだろう。
けれどもそんなんはしなかった。
なんたって相手が幸村、だ。

「名前、殿」
「なによ改まって」

2メートル、離れた幸村はやたらと緊張した面をして名前殿、と私を呼んだ。
幸村は私を殿とつける。
名前でいいと言ったのにこれだけは譲らなかった。
聞けば女性に慣れていないのだそうだ。
その顔で。嘘だろう。と思ったが、友人付き合いしていて本当だとわかった。
ならなぜ私と仲がいいのかは、私を女と認識してないかのように佐助や政宗や元親は私に接するからだとなんとなくわかった。
かすがや市は女の子としてみる癖に。
おかげで私自身女の子だっていうことをちょくちょく忘れる。

「その」
「んー?」

なにか幸村にしたか?と考えて、思い当たる節が多すぎたからやめた。

ただ逆鱗に触れることをした私一人で遂行したおぼえはない、はずだ。
やつのお菓子には手をつけたり、エロ本を鞄に忍ばせたり、はてまた武田先生を馬鹿するなんてもってのほかだ。
(因みに上から佐助、政宗、元親が過去に罰ゲームでやったことがある。)
私、なにかした!?

「あの、」
「な、に?」

なかなか言い出さない幸村。
どうかしたのか、と気になって顔を見れば、視線がさまよっていて、気のせいでなければ頬が赤いように見える。

「幸村?」

呼びかけてそこで、やっと意を決したようにキッと私を見るからとくん、と不覚にも胸が高鳴った。
顔はいいからなー、と誰にでもなく言い訳をする。

「某の」

某の、なんだ?
まさか、顔赤いし彼女にとかいう告白!?
えっ、えぇ!
なに?調子乗っていいの!?
期待をした自分はまだ女の子だ。

「某の宿題を手伝ってくだされ!」
「おっちね」

思わずため息をついてしまった。幸せが逃げる。
胸のときめきを返せとか思いつつ、せめて話を!というので聞くと、英語の宿題を突っ返されて今日居残ってやれと言われたとか。
同居先の責任者兼部活の顧問である武田先生にも了承を得ているそうで、宿題が終わるまで部活に出られない上に帰れないのだそうだ。哀れ。
因みに佐助はスーパーのタイムセールスのためにもう帰ったから頼めないとか。(おかん、て呼んでも奴は認めない)

「だったら政宗に頼めばいいじゃないのよ。同じ部活だし、残ってるでしょ?」

悔しいが英語の成績なら奴のが上だ。

「政宗殿はイヤでござる!」
「?なんで」
「某の鞄の中に、その、春画本をいれるから…」(ぼそぼそ)
「あぁ。つか春画本。エロ本って言えばいいのに」
「!?
名前殿!女子がそんな事を口に出すなど、破廉恥でござるぅぅうう!!」
「うっちゃい、お子様!」
「ひどい…でござる」
「まぁ、何はともあれ早く終わらせるんでしょ?可哀想だし、付き合ってやるわよ」
「名前殿!」
「感謝するといいわ!」
「名前殿ぉ」
「幸村ぁ!!」
「名前殿ぉ!」
「さっさとやりなさい!
テキスト見て、わからないところがあったら聞きなさいよー」
「御意!」
そのままの勢いで机の上にテキストと課題を広げて、ペンを持ったのを見届けて私はかばんから読みかけの本を出す。

「名前殿!」

ん?

「わからぬでござる!」
「おっちね」

早いわよ。と追い討ちをかけてから、正面の机に後ろ向きに座って課題を見た。
まだ一枚目じゃないのよ。(因みに課題は全部で5枚)
先は長そうだと考えたら幸せがまた逃げていった。

*

「お、終わりましたぞ!うぉぉおっ!お館さむああ!」
「うっちゃい幸村。
……やっと、終わっ、た」

机にうなだれて、ながーく一息ついた。
視界に入った腕時計の針は現在時刻は5時ちょっと前と示している。
教え始めたのは3時を少し過ぎたころ。
幸村に教えている間、将来教師にはなりたくないと何度か思った。

ガタンと椅子から立ち上がって歓喜でなのか知らないけれど、おや、かた、さむあ!!とさっきまで死んでいた幸村が騒いでいる。
横目でそれを見て、元気だなぁ…。と思うぶんの気力しか私には残っていなかった。
もう魔法という名のツッコミは使えない。

▼名前 は マホウを使った!
▼MP が足りない!
▼しあわせ は にげだした!

あ、末期。


「…幸村幸村」
「ん?」
「部活行かないの?」

うちの学校の最終下校は6時なのでまだ1時間はある。
つまり1時間は部活に参加出来るって事。
幸村はいつまでたっても机の上に広がった課題のプリントとテキスト、それからやつに理解させるために使用されたルーズリーフ数枚と色ペンを片付けない。

ぬぅ…と唸って幸村はしぶしぶ机を片づけて始めた。
少し、びっくりした。
おぅ!早く行くでござるー!って机片付けるのも忘れて課題だけもって出て行くと思ったから。
そうしたら、私が片づけておくからーって言おう、って思ってた。

黙々と彼が、シャーペンや色ペンを筆箱にのろのろ入れるのを見ながら、ルーズリーフ数枚を纏めて彼のテキストに挟み込んだ。
それからバラバラになった課題を順番に並べる。
ちらほらと幸村がこちらを見ているような気がするが、まぁ気にしない。
タイミング的に謝罪か感謝だとみた。

「名前、殿」
「んー?」

なんて夕飯のメニューを考えるような感覚でひとり遊びをしてたら、声をかけられた。
頭の中では既にどういたしまして、とか気にするな、と言葉が浮かんでいた。
ふと色ペンを数本、取っていく彼の指が目に入る。

私は彼の課題を教卓の下に転がっていたホッチキスで真田幸村と意外にきれいな字で書かれていた横にガチョン、と止めた。

「…お慕い申しております…!」
「あー、うん。どういたしまし、…て?」

あ?

手元の課題の真田幸村から、目の前に机一個挟んで立つ真田幸村に視線を移した。
幸村が筆箱をガタンと乱暴に置いて、片手で顔の下半分を覆った。
真っ赤だ。
彼が持っていた色ペンが一本、からからとペンが床に落ちて転がった。

「ごめん、もっかいいい?聞き取れなかった」
「無理でござるぅ!!は、はぁれんちぃぃぃいっ!!」
「うっちゃい!つか破廉恥って今、自分で、!〜〜ッ!!」

言葉に詰まって、口がパクパクと開くだけになった。
つか口調といい、春画本といい、告白といい、なんて古風なんだこいつは!
お慕い申しておりますってお慕い申しておりますってお慕い申しておりますって……!
だんだん顔が、熱が集まって赤くなるのがわかる。
幸村にこんな顔を見られるのが恐ろしく癪で、ばっと机に伏せる。
がたん、と机が音を立てた。
名前殿!?と幸村が狼狽えた声で呼ぶ。

「あーもう!!うっちゃいうっちゃいうるさい!見るなー!呼ぶなー!部活行けー!」
「部活には今日は行かぬ!」
「サボリだって武田先生にちくるぞ!」
「大丈夫だ!名前、…!」

ガタンと、椅子に座る音がする。
どうしよう心拍数がまた上昇してる。

「…好き、だ」

歓喜する声とも、叫ぶ声とも、怒る声とも、狼狽える声とも、情けない声とも、恥じる声とも、どれとも違う。
低く、小さく囁く声がした。
意を決してそろりと顔を上げる。
変わらず片手で赤い顔を覆ったまま、俯いていた。

「幸村、幸村」
「…名前、」

顔を彼は上げない。
私にとってそれは都合がいい。

「…大好き、」

ありったけの気力を、MPを、勇気を振り絞っても出た声は小さかった。
顔が熱い。
急いで俯いた。
それから何の反応もないのが、怖くなってまたそろりと顔を上げる。
幸村と目があった。
幸村が口を覆っていた手をそろり、と外して、私にゆっくりと伸ばして―――


直後、チャイムが鳴る。


2人してはっとして、動き出す。
私は即座に鞄を持って走り出した!

「ちゃんと課題出して部活行きなさいよー!」
「名前!」
「それじゃまたね!」
「!!」


その、そのその


(名前って呼ばれた…!)
(大好きって、大好きって…!)
((あー、なんか進展したんだろうなー))

*20090401


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