01



突き刺すような、寒さ。
先ほどから牡丹のように大きな白が空から降り、辺り一面にはうっすらとだが、確かに雪化粧が施されいる。
木々には青々とした色は見えず、枯れ葉が数枚、雪の上にそっと添えてあった。
この、しん、という音さえ聞こえるこの静寂に、光景に、侘びしさを、同時に孤独、を感じながらただ私は突っ立っていた。
季節は春。の筈だった。いや、筈なんかではなく確かに春だった。
今日、私は高校3年生に進級した。
専攻は理系。
今年受験を控えた別に珍しくもない、只の17歳の女子高生だ。
なんで、どうしてこんなことになったのか、理解不能だ。
気づけばここにいた、なんて、とうとうアタマがいかれたか、なんて考えた。

今が見頃と称された桜は、
あの淡い青と白のコントラストは、
暖かな日の光は、
とても強いけれど心地良いあの風は、
あの鳥のさえずりは、
どうしたのだろう、か。
頬をつねる。が、痛みを、感じない。

ああ、これは夢なのかと気がついた。
前から夢を夢だとふと気づくときがあった。
夢はあからさまなものが大半だ。だからこそ気付くのだと思う。
私は先程まで自室で、制服に着替えたばかりだった。
今日は始業式で、昨日春休みが終わったのだ。
鞄に、財布とMP3と携帯、デジカメ、参考書数冊に電子辞書と筆記用具と必要な書類を突っ込んで、自室のドアを開けて、それから、それから、


ふるりと体が寒さに震えた。


さらに、一つの可能性に気付いた。
これは夢ではないのではないかと。

大抵の人は五覚がある。その中には、触覚というものがあって、そこに痛覚。が含まれていたと思う。
痛覚は、麻痺、するのだ。
原因は多数ある。
だがよくあるのは、血流が悪くなることから起こる痺れや、麻痺。
正座をしたときなんかが特にそうだ。
血流が悪くなる原因は、病気以外では、主に部位の締め付けと、極度の体の冷え、だ。

痛みを感じなかったのは、冷えが原因だとしたら。
疑問が一つ。
なぜ自分は春に、極度の冷えを感じているのか、だ。
確かに春とはいえ寒いかもしれない。
だが、この雪は何だろうか。
空から降る雪は度々私に当たり、溶けていく。
そのつど、肌が濡れ熱が奪われる感覚を捉えて、ふるりと震えた。

人はよく、頬をつねるなり叩くなりして、夢と現の区別をする。


触覚が、痛覚が証拠となるならば、これは現実だ。


ふるり、と震え
一つ、湿った息を吐いた。
この震えは、寒さだけではなかった。


*


雪はまだ降り続いた。
どこかの山道を宛もなく、歩く。

携帯は、圏外で使えなかった。
せっかくのGPSも意味をなくした瞬間だった。
ほかの荷物も役にはたちそうになかった。
畜生。どんな山奥なんだよ、ここ。


すっかり冷え切った体にはもはや疲れしかなかった。
足はまるで棒のようだし、手先は氷みたいだ。
いっそ凍え死んだほうが楽、なのではと考えて、足を止める。
かれこれ3時間近く、歩いた。
それでも景色はあまり変化を遂げず、民家もなにも手がかりは見つからない。

目を閉じた。
息を吸った。
もはや、鼻は冷たさを感じることすら出来なくなっていた。
息を吐く。
白い息が出た。
重心は後ろに傾く。
ぎゅっと雪を潰す音がした。


「………」


しん、静まり返って聞こえた耳鳴りにも似たそれに意識が、のまれていく気がした。
いけないとは、思った。
が、いかんせん力が入らない。

あぁ、もうだめだ。
そう思ったら、急に底知れぬ孤独という恐怖にみまわれた。

独りは、怖い。

目に力が入る。
泣きそうに、なる。
畜生、だ。


体が寒さを、ひたすらに訴えた。
寒さと白と静寂が孤独を強めていく。

くじけたら、いけないのに。

思考が、だんだん鈍くなる。
結果、長い長い永久の眠りになるかもしれない眠りに誘われた。








――ふと少し離れた場所からからぎゅっぎゅっ忙しいと音がした。
その音は複数、まるで走るような速さで近づく。
「!」
「あらま」
「破廉恥でござる――――!!!!」
「はいはい。旦那ってばいい加減なれてよ。
で?この子、どうするの」
「そうだった!
うむ!城に連れて行くぞ」
「えー。間者かもよ?」
「それでもだ。
某、女子をこのような場所へ転がしておくのは、気が引ける」
「…はぁ。また俺様のしごとが…!」
「そうと決まれば、佐助!空き部屋へ運べ!」
「え?俺様が!?」
「うむ!」
「旦那がやるんじゃないの?」
「…は、はは破廉恥でござる―――――!!」
「えぇ、ちょ!旦那ぁ!!」
「うおおおお!!お館さむぁあああっ!!!」
「………………はぁ」





眠るみと、赤いのとおかん。






(あぁ、これ、は)
(暖かい)


*20090125


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