02




ユーちゃんの右手から、ゆっくり紅が流れ出す。
呼吸を浅く繰り返して、それを凝視した。

「っ!!」
「あ・・・」

や っ て し ま っ た 。
それを見て急に怖くなって、後ずさる。

「ち、近寄らないでよ!近寄ったら刺してやるんだから!」
「それではコートだけでも!」
「は?」

ばっと勢いよくロングコートを差し出されて、思わず息を飲み込んだ。
それよりも行動の意味がわからない。
この変態野郎はなにをしたいのか。

「だ、誰がそんなものかりるものれふゅか!!」(噛んだー!!)
「寒さで舌も回っておらぬようにお見受けするが、」
「そんらことらいんらから!」(そんなことないんだから!)
「とにかく、着てくだされ!」
「らんれあんららんかの言うこほひひゃらひゃいへらいのよ!」(なんであんたなんかの言う事聞かなきゃいけないのよ!)
「そのようなその、…寒そうだからでござる!手も震えている」
「らからっれふぇんらいらんかに…」(だからって変態なんかに)

「それに、」
「なによ。」
「年頃の女子がこのように裸体を晒すなんて、は、」
「は?」
「破廉恥いいいいい!!!」
「は!?」


「御免!」というユーちゃんの声と視界が一瞬にして暗くなる。
それに焦ってそれを退けようとして明らかに自分のものではない匂いと、温もりが伝わってようやく頭からロングコートをかけられたことを理解した。
視界が暗いのが怖くなってコートを退けようと片手をあげた。
がコートが体からするりと数センチズレたところで体がホールドされた

というか破廉恥って。


「そ、某の家は近所で、だから、その、来ないか?」

コート越しにユーちゃんの声がする。
コートを被せたためか距離はさっきよりも近い。
なのに、焦りはなかった。


――だからといって、こうしてホイホイついていってしまったのは今更ながらどうかと自分でも思う。
連れてこられた奴の家はは新築の高そうなデザイナーズマンションの一室でした。
広々としたリビングには和の要素も所々見受けられて、こんな状況でなければきっと進んで和んでる。むしろ和みたい。

あれから私はなぜだかふかふかのソファに座らせられ、テレビの前で待て、の号令がかけられている。
ちなみに服は相変わらずユーちゃんのコートのみ。まるで変態さんルックね、なんて自己嫌悪に陥った。普段変態さん滅!とかほざいてんのになんだ今の自分の格好。
思わずああああ!とか叫びたいけど、まぁ、人様の家なので自重しますよ。
とかなんとかもんもんと考えながら大人しくテレビから流れるニュースに耳を傾けつつ、小さく縮こまって待機していたら、ことん、と湯呑みがテーブルに置かれる。

「その粗茶だが、よかったら」
「え!あ、」
「そのほうがきっと暖まる」
「あ、りがとう」

熱い湯呑みをそろりと持ち底の部分を手のひらに置いて、空いた片方を湯呑みに添えてゆっくり飲む。
熱い、けど、美味しい。
肩から少し、力が抜けていく。
場違いながら少しだけ口元が緩んでしまった、不覚!でも美味しいお茶に罪はないよ。
とりあえずまた一口啜ったところで、正面に座ったユーちゃんがあの、と控え目に発言した。
思わず、肩が跳ねた。


「驚かせてすまない。…ところで、そなたは何故あの様な格好であそこに?」
「あ、それは、その、……へんた…いや、ごめんなさい……黙秘させて」

ただでさえ怪しいのに理由黙秘とか、凄く申し訳ない。けど、言えないし、言いたくない。
あれらを口に出せば泣いてしまいそうになる。
一瞬思い出しただけで恐怖がフラッシュバックして、息が苦しくなる。

「そうか。ならば聞かぬ」
「え。」
「酷く怯えていたから、聞かぬ。」

うわぁ、この人頑として言い切った。
悪い人によく騙されるんじゃなかろうか、この人。

「…いいの?」
「うむ。構わない。」
「いや、でも」
「構わぬと言っている。聞かぬと決めたからには聞かぬ!」
「そんなこと言ったって!私怪しいでしょ?貴方のこと傷付けたでしょ!?変に優しくしないでよ!」

頭に佐助が浮かぶ。何かとあいつは世話焼いてくれて、優しくしてくれた。だから、奴に裏切られた今、優しくされるのは怖い。
叩きつけるように叫ぶと目からぼろぼろ雫が垂れた。
ユーちゃんがぎょっと目を一瞬見開いて、視線を逸らした。

「お主は、」

視線を逸らしたまま、いつの間にか持っていたちょび髭ト●ロを抱えてもごもご口を開いた。
私のすすり泣く声とテレビから流れるアナウンサーの声しかしないこの部屋でおかしいことにやたらとでかく聞こえた。

「お主は俺の恩人だ。俺を助けてくれた。」
「…?」
「おやかたさまを拾って、俺に返してくれた。だから、俺はお主が悪い奴だとは思えない。」
「そんなこと言ったって!私あなたの手を、」


ぐるぐる、手の形が辛うじてのこるくらい包帯を巻いた痛々しい右手を視界に入れる。
ユーちゃんはにこ、と薄く笑って手を私にかざした。


「なに、治るものだ。気になさるな。」
「……ごめんなさい。」
「ごめん、はあまり好きではないな。」
「…!あ、りがとう。」
「うむ!…それからその、泣き止んでくだされ。女子の泣き顔はその、心臓に悪くて、」
「頑張ります…。」


グスン、グスンなる鼻をティッシュで押さえて涙も止まってきた頃に、なにやらバタバタと音がしはじめた。と思ったら、


「Hey,幸村!Time has comeだ!物を寄越しな!」
「ま、さむね殿」


ばぁん!と扉が開いて何とも人相の悪いお兄さんが入ってきた。借金取りとかいうその道の方だろうか。恐ぇ。




多分、


じゃない。





(Hey!なんだその手!!)
(!!)

*20100419

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