11





(あなたは寂しいの?)

「(寂しいってなに?)」


(あなたは不安なの?)

「(不安ってどんなこと?)」


(あなたは、)



*



まぶしい。
ロドプシンが少量しか分泌されてないために視神経がそう脳に訴える。
それからゆっくり朝が来たことを察知した。
学校、行く準備しなきゃなぁ。
でも目覚ましがまだ鳴らないから、後少し!と布団に深く潜って二度寝の体制に入る。
あー、ぬくい。布団から出たくないね、うん。
枕に頬ずりをして、寝返りをうつ。
否、うとうとした。
片手が何かに固定されて、動かない。
なんだろう。疑問に感じて重たい瞼をこじ開ける。

「……?」

なんだ。まだ夢のなかじゃないか。
夢じゃなきゃ目の前でかっこいいお兄さん寝ている訳がない。
とりあえず見なかった事にして、再び布団に顔をうずめる。
この際、着物を着たまま寝ている自分も多分彼によって固定されている手も、見なかったことにしよう。
きっと金縛りにあっているんだ片腕だけ。

夢なら覚めろ。心臓に悪いから。
いや、でもやっぱり覚めないで。
まだ寝たいのよ。


「うむ、お館さむぁ…」

これは幻聴だ、て思いたい。
でも、だんだん覚めてきた思考が夢じゃないですよーと教えてくれる。
どうやら明晰夢にはなってくれそうにない。

こけこっこー!、と鶏が鳴いて、後を追うみたいに雀がちゅん、と鳴くのが聞こえた。
本当にこけこっこー、って鳴くものなのね、鶏って。
いや、幻聴だよ、幻聴。
鶏はくるっぽーって鳴くのよ。(違っ)
つまりはこれは夢なのよ。

とまあ軽く現実逃避。

「そろそろ朝ですよー」
…おっしゃこれも幻聴!

「おーい、朝だってば!名前姫様聞いてんのー?」


私姫様じゃないし。


「ほら、お着替えとかしなきゃ!起きてー!」


夢だ。
んでこれは幻ちょ「ふぅ〜」

「うわぁっ、さ、さ佐助さん!?」


驚きついでに勢いをつけて上半身を起こす。
近づく足音も、襖の開く音もしなかったのに!
つか耳に、いま、息っ……!!


「あ、名前姫様は起きてたのね。えらいねー」


えらいねー、て。
新手の嫌みか。起こしたのはあなただろう!
手櫛で軽く髪を整えながら思った。


「ち、ちなみにいまどこから」
「ん?あそこ」

佐助さんはワンポイントっ!と指摘するように人差し指一本立ててあはーと笑った。


「あそこって…」

その指先を目で追って、一部だけ正方形に板がはずれているそこを見た。

「………佐助さんって、もしかして忍者ですか?」
「ご名答ー!
ってかこの格好でわからなかった?」
「自衛隊…あ、一種の軍隊みたいなものです。かな、って思ってました。佐助さんは忍んでないので」
「えー傷つくなぁ、これでも俺様真田忍隊の頭なんですよー?」
「へぇ」
「反応薄っ!」
「それじゃあ、幸村さんもなにか?」
「え?」


え?と言われたのに驚いてぱちくり、とまばたきをした。


「俺様はともかく旦那の事わからない?」
「いやー、日本史が苦手というかなんとゆうかでして」


佐助さんがきょとん、として首を傾げる。
あらまぁ、この人も結構男前?


「でも、大将はわかったんでしょ?」
「はい、大河ドラマ…このばあい意味は物語とかいったとこでしょうか?で有名でしたから」
「じゃあ、旦那はそのどらま?には出てた?」
「あー、ちらっとしか見ていなかったので登場人物よくわからないんですよ」

佐助さんの目がじぃ、と私を観察するように細められた。
別に嘘は言ってないですよ。の意を込めて見つめ返す。


「じゃあさ、旦那、は、後の世、には、」

すると彼は、言葉を選ぶように区切りながら声を発して、

なんとなくだけれど言いづらそうな低く小さく、聞き取りにくい声で先を言った。

名を残さないのか、と。



「それはないです」



それはどうだったか、と考えるより先にはっきりと出た。
自分で言った癖に豆鉄砲を喰らった気分だ。


「なんで言い切れるの?」


無感動に佐助さんが聞く。
なんでだろう。私が聞きたいくらいだ。


「あー、ほら、だって、私は歴史を勉強してませんから。だから知らないだけです。
…………その、多分ですが」
「多分って、」


納得いかない様子で佐助さんが食いついた。
正直私も納得いかなくて悩んでる。
視線を外して俯いた。
あ、着物が若干はだけてる。

「うーむ」

はだけた襟元を軽く直しながら、唸る。
嘘がバレた時に問いつめられている気分だ。


「あ!それに!」
「それに?」
「えーと、あーと…そうだ!幸村さん男前ですし!!!」
「ぶはっ!!」
「えっ!?あ、佐助さんも男前だと思いますよ!ってあれ違うよ!!」
「あははは!!!だってさ、旦那!」
「っ!!」


寝ているはずの彼があからさまに反応した。
握られた手もピクリと動く。

「え!幸村さんっ!?」
「起きてないでござる!ぐーっ!!」
「ものぞっこい起きてるーー!
え、ちょ!聞かれてた!」
「もっ、申し訳でござる!別に聞く気は…!」


そういいながらガバッと体を起こして、申し訳なさげに少し頭を下げたまま言った。
服装が昨日のままで、若干はだけていて、そこから見える体に若干きゅんとした自分は変態か。いや、きっと普通だ。



「いつから…?」

おそるおそる問う。

「佐助がこの部屋に入ってからでござる!」

目をそらしたまま、彼は小学生1年生に負けないくらい元気に答えた。
お館様の教育の成果だろうか、これは。
つか、最初っからじゃねーですか。(口悪)
恥ずかしくて死ねる気がする!!


「あははは!!」
「笑わないでください佐助さんっ!あー、あー!もーっ!!」


とりあえず穴があったら入りたい。

顔を反射的に覆おうとして手を上げた。
いや、上げようとした。

(そういえば。さっきから当たり前みたいに、)


それから、当たり前のように繋がれたままの手を見てから、隣の幸村さんを見上げる。


「?」

きょとん、と首を傾げられる。
その顔は佐助さん同様に男前だった。
やっぱり顔がいいと様になりますね。いいな。
じゃなかった。

「…………手、離していただいてもよろしいですか?」



「?……………!!!すまぬ!!破廉恥!!」
「旦那、それ謝ってんのか貶してんだかわかんないからねー」
「は!」
「わー、手が動くー」


若干痛む手がわきわきと自由に動くから妙に感動した。

すると、…こう…なんとなく?見られているような気がする。
いやな予感がして幸村さんを見た。


「!!」

幸村さんめっちゃしょぼくれてる!


「某は、某は………!!叱って下されお館様ああああああ!!!」


幸村さんはすくっと素早く立ち上がって雄叫びを上げる。
今にも障子をたたき割りそうなかねない勢いだ。佐助さんが小さくやれやれ、と言ったのが聞こえた。

小さく、袖の端を掴む。
この人を止めなきゃ。


「!」
「(きーん)…あー、幸村さん。落ち着いて。待って下さい」
「止めないで下され名前殿!某は、お館様の娘でおられるあなたと手繋ぎをし、その上、その……一夜を………!(ぼそっ)
おおおおお!!叱って下されお館さむあああ!!」
「いやだから、待ってくださいってば」


走り出されないように必死に袖の端を両手でがっちり掴んだ。
その様子を佐助さんが困ったように笑って見ていた。


「しかし!」
「終わったらお館様のもとへ行かれてもかまいませんから。ね?」
「…うむ」
「おー」


幸村さんが座ったのをみてぱっと手を離す。
横でパチパチとまばらに手を叩きながら、名前姫様すげー、と呆気にとられた顔のままの佐助さんが言った。
苦労しているんだろうなー、佐助さん。
幸村さんに視線を戻してから、まぁこの人だしなぁ。とか思った。(失礼)

それはさておき。
目の前で何を言われるのかと正座したまま小さくなって俯いている幸村さんをみる。
ぶっちゃけたところ、彼をここに留まらせたところで何も言うことはないのだ。
しかし、何も用事はありません。なんてそれは真っ直ぐに真剣な彼に対して失礼すぎる。
しかし、ふすまは壊しちゃだめですよー。なんて軽すぎる内容を言える空気ではないし。

内心、どうしようかと唸る。

助けての意を込めて佐助さんをちらりと見る。
目があった。
佐助さんは視線の意味を知ってか知らずかニコッと笑って、消えた。
え。ちょ。

沈黙が走る。


「…………」


幸村さんは小さくなったままだしなぁ。
これで叱ろうなんて、無理。
それこそ子犬をいじめる気分だ。
そもそも追い討ちを掛ける気なんて毛頭ないし。
ただ、この空気をどうにかしなきゃ。
ちゅん、と雀が鳴いた。
あ。これだ。
若干恥ずかしいが、幸村さんしかいないし。よし。


「幸村さん、」
「!」


彼の肩が小さく揺れた。
そんなに驚かなくてもいいじゃないか。
普通に呼んだだけなのに。
私は鬼婆か。と内心思って、それから、私が出せるだけの穏やかな声を出した。


「私は、怒ってなんかいませんから」
「………」


私だって彼をびびらせたい訳ではないからだ。


「むしろ、感謝しているんですよ?

手、繋いでくださってありがとうございました」
「!」


驚くようにばっと顔をあげた。
その顔は酷く間抜けだが、やはり男前だった。
やっぱり顔がいいと(ry


「そんな礼など!むしろ某は」
「私に叱って欲しいんですか?幸村さんってそういう趣味をお持ちでい」
「そんな趣味はないでござるー!!」
「それでは、お礼を言われるのは不快ですか?」
「…違う」
「ならばいいじゃないですか。ね?」
「…しかし」


「幸村さんが、手を繋いでくださったのは私を心配してくれたからですよね?」
「私が、寂しくないように。」
「そう幸村さんご自身が言ってましたし」


顔を真っ赤にした幸村さんがぱくぱく、と金魚のように口を開けた。


「心配してくれた事が、すごく、嬉しかったんです」
「だから、ありがとうございました」


手を繋がれたときを思い出して、思わずへらっと笑った。
それから、幸村さんが慌てて片手で顔の下半分を覆う。


あのときの質問の答えは正直まだ、わからない。
だけど、これだけは確かだったから。


「幸村さん、ありがとう」
「………どういたしまして、でござる!」
「はい!…あ。」
「いかがなされた」
「お館様のところに行かれないのですか?」
「!!お、お館様のところへはまだ行かぬ!」
「そうですかー。」
「うむ!」


ちゅん、と雀が鳴いたのが聞こえた。

そういえば、と佐助さんがいなくなっていたのを思い出して、彼がどこに消えたのか若干気になった。
が、まぁいいやって放り出す。


「あ。幸村さん、幸村さん」
「名前殿?」
「今とは言いません。
またいつか、手を繋いでくださいな」
「!承知した!!」
「ありがとうございます。…ふふっ!なんだかお腹がすいてしまいましたー」
「…そうでござるな」
「朝ご飯は、まだなんでしょうかねぇ」
「きっとそろそろでござる!」
「そうですかー。
昨日のご飯、美味しかったから楽しみです」


確実にあー、穏やかだなーって思える空気が流れている、


んですが。
いやね、なんだかどたばたと音がするんですよね。
すっごい既視感というか、見ているわけではないから既聴感とでもいおうかしら。
とにかく、すこぶる嫌な予感がするよ。
私の嫌な予感は何故だかよく当たるんですよ。
証拠に隣の幸村さんの顔が青ざめてるし。
そんなことを考えている間にも、足音は近づいているのがわかる。

ちちち、と雀が飛び立った。
とりあえず、まずは耳を塞いでおこうか。

きっとお館様がここに来る。

忘れていた、おはよう、はそれから言おう。
小さく笑って、身構えた。

「幸村ああああああっ!!!」
「ごふっ!!」



きみと、と。

(それから、おはよう)



(幸村ああああっ!!)
(お館様あああっ!!)
(どこに行ってたんですか?)
(ん?大将を呼びに行ってたの。)
(だからか。あ、佐助さん。おはようございます。)
(うん、おはようございます。)
(ゆぅきぃむぅるあああっ!!)
(おやくぁたさむあああっ!!)
((名前姫様ってばひょっして慣れた?))


*20090420


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