08




ぱんっと手をあわせる。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした。
まぁ、俺様がつくったわけじゃないけどね」
「某、満足したでござる!」
「おいしかったです!」
「うむ!」


きれいに盛りつけてあったお団子もお饅頭も、全て消えた。
大半は多分、幸村さんのお腹の中だ。
彼の食べっぷりは、凄かった。
とにかく、凄かった。
としか、言いようがない。

私と佐助さんがお饅頭1個食べている間に彼は3個同時に食べていた。
私が、お団子1本食べる間に彼は3本同時に食べていた。途中、喉に団子を詰まらせながら。(佐助さんはお茶を幸村さんに渡して、はらはらしていた)(その間、お饅頭食べる振りしてひたすら爆笑)

なんというか、見ていて飽きない。
思い出したら笑いそうになって、あわてて意識を戻す。


「そういえば、名前ちゃんは聞いた?」
「へ?何をですか」
「あれ?聞いてない?
今夜、名前ちゃんの歓迎会、やるって大将が、名前ちゃんに言うように旦那に任せてたはずなんだけど」
「っ!!忘れていたっ!」
「あ、やっぱり?だろうと思ったよ。」
「歓迎、会ですか?」
「そう、歓迎会。姫ってことは公表されないから少人数だけどね」

瞬きをした。
歓迎会。
なんて、めったにしない。
というかしたことがあまりない。
最後にしたのはちょうど去年の今頃で、部活の新入部員の歓迎会だった。
メインは、新入部員。
私は歓迎するほうだった。

「私の…?」
「そう、名前ちゃんの。
っても、まぁ歓迎会ってかこつけた飲み会なんだろうけどね!」
「あぁ。それは変わらないんですね」

一瞬凄く共感した。

「名前殿の世でも、でござるか?」
「はい。みんなで飲み食いして遊んで、たまに2次会、ってカラオケに行ったり、」
「からおけ?」
「あぁ、えっと。単純に言えば、歌うんです。音楽に合わせて」
「へぇ、楽しそう」
「はい、とても…」

楽しかったかったっけ…?
うん、楽しかったんだよ。うん。
楽しかった。

「とにかく、半刻したら迎えに来るね!」

ボケッとしていたら佐助さんが、盆を持って退席した。
私はその背中に何も言わずに、ただ見送った。

日は完全に落ちる寸前で、空には宵の明星が私が知っているよりもはるかにキラキラ光り輝いて、浮かんでいた。

「名前、殿」

幸村さんが控え目に私を呼んだ。

「はい?」

酷く切なそうな顔をして「いや、なんでもござらん。」と、話を切られた。

「?」
「某、もそろそろ失礼するでござる。」
「あ、はい」

幸村さんは「ご馳走さまでした、でござる!」と言い残して、また、そろりと慎重に雪の上を歩き出した。

数分後に入れ違いで女中さんがなにやらによによしながら入ってきた。
手元にはまた着物を持っていた。
デジャブ、だ。

「名前様、お初お目にかかります。お静と申します。
この度は御披露目の宴の為にお着替えをお手伝いさせていただきます。
それでは早速、」

その瞬間、お静と名乗った年配の女中さんの目がキラッと光った気がして、一歩下がる。
すると、逃がさないとでも言うように帯を掴まれて、しゅるると目にも留まらぬ早さで解かれた。
「うわ、」
「我慢なさってくださいましね、」

すぐに、終わりますから!と脱がされて、新しい着物を着させられる。
赤を基調とした、これもまた高そうな着物だった。

そう言えば、赤は武田の色だから好きだと幸村さんが言っていたなー。
と思い出した。
………まさかね。
考え出たものを消去した。


「あぁ、そういえば。名前様はご存知でしたか」

お静さんが、帯を結びながら問う。

「ん?なにをです?」

気恥ずかしくなって出来るだけ着物を見ないように、お静さんの顔を見ると、それはもういい笑顔、が浮かんでいた。

「先ほどのお着物と、このお着物は幸村様がおえらびになられたんですよ!」
「ぐっ!?げふんッこほん!!」
「色だけですけれどね!」

息を変に飲み込んで、むせた。
にやにや、というか、口元が崩れていますよ。お静さん。めっちゃ楽しそう。

というか、だ。
先ほど消去したばかりの考え、が的中していて驚いた。
変なところで勘が冴えるとは!
まあ、色だけではあったけど…!

「まぁ!大丈夫ですか?」
「は、い…!げほっ」
「何かお飲みになりますか?」
「大丈夫、です」
「そうですか。はい、終わりましたよ!お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
「ふふ、よくお似合いですよ」
「〜〜ッどうも!」

顔が熱い!慣れん!
落ち着かん!
じたばた暴れたい衝動を俯いて歯を食いしばって抑える。
くすくすとお静さんが上品に笑った。
はっ!とする。
私っからかわれているのでは、と気が付いて、とりあえずため息をついた。

「時間が、思ったよりも余ってしまいましたね」
「そ、うですか?」

やたらこっちはすごく長く感じたのに。

「せっかくですから、少しお化粧致しましょうか」
「え、いや、あの、遠慮します」
「しましょうか」
「………はい」

お静さん、強いです。
ニコニコとした圧力が凄い。
そういえば自分も幸村さんにやったな、と考えてなんだか申し訳なく思えてきた。
あとで、謝ろうと思う。



*


「目をお開きになっても大丈夫ですよ」
「…はい」


目をゆっくり開ける。
「これでよろしいでしょう」とお静さんが満足そうに笑う。

やっと、終わった…!
正直、化粧というものはこんなに疲れるものなのか、と思った。
自分でする化粧はせいぜいピンク色のリップグロスをかるく塗って、ビューラーでまつげを上げる程度の軽いものばかりだった。
大体5分もかからない。
だから、お静さんの気合いの入った化粧は、やけに長く感じた。
故にやけに疲れるものだった。
気力が削られる、という感じ。
というかだ。
化粧は大学に入ってからにしよう、と考えていたから慣れないことも原因のひとつだ、と断言しよう。
ひとつ、ため息をついた。
お静さんが名前様、と咎めるように名前を呼んだ。

「せっかくきれいにお化粧をしたのですから、そのようなお顔をなさらないでくださいまし」
「…気をつけます」

そう返すと「よろしい!」とお静さんはふんぞり返って言った後、くすくす笑い出した。
本当に、からかわれている気がするけれど、不思議と苛立ちとかは感じなかった。


「名前ちゃん?」

襖の向こうから、低い声が聞こえた。
その声は、

「佐助さんですか?」
「ご名答ー。」

「迎えに来たよー。お着替は終わった?」と聞かれて、なんにも考えずに「終わりました!」と返す。

「じゃあ襖、開けるね」と言われて、考える。


自分、化粧とかしとるやんけー。


ちょっと待て!!

「え!?あ、いや、ちょっと待ってください!」

慌てる始めた私にお静さんが「名前様、落ち着きになってください」と楽しそうに言う。

落 ち つ け る か !!

妙に気恥ずかしくなって慌てて後ろを向く。
お静さんが笑いながら、腰をがっちり固定してそれを阻止する。
襖が、開いた。

「うわ。
…名前ちゃんてば、化けたね〜」
「頑張らせていただきましたから」
「そうなの?ご苦労様」
「いえ。ほら、名前様」
「…………へんじゃないですか?」
「うん、大丈夫」
「そ、ですか!」
「そうですよ」

にこにこ、二人で笑顔を浮かべながら私を見る。
その目が微笑ましいものを見る目な気がして、余計に照れた。


「それでは」

そう言ってから、改めるように一歩後ろに下がった。


「佐助さん?」
「僭越ながら、この佐助がご案内仕ります。名前姫様」


左膝を立ててしゃがみ、右拳を地面に真っ直ぐ置いて頭を垂れた。

「ひっ!?あの。
それやめてください、お願いします。いや、ほんとに切実に」

恥ずかしくて、死ねる。
これはなんていう乙女ゲームだ。
というか、姫様って、姫様って何だよ!!
頭の中でシャウトした。

「それってなんですか?名前姫様」と佐助さんが返す。
顔を上げてにっこり、笑う。

確信した。
わざとだ、この人。
なんて底意地の悪い人だ、と言いたいが言えない。
なんでかって。
変なところで度胸がないからですよど畜生。


「その、姫様ってやつですよ」
「そのように申されましても、名前姫様は姫様ですので、ね?」


それから、口パクで慣れろと言われた。
黙る。
それから、いい子だ、というように頭を軽く撫でてから、それではこちらに、と歩き出す。
お静さんがいってらっしゃいませ、と控えめに言った。



 




(えぇ、ちょ、姫様って!やめてくれ)
(あぁ顔が熱い…!)
(あはー、慣れてねー!)
(慣れるか畜生が……!)


*20090206


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