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「なんだこれ……」

 いつものように目が覚めて、いつもとは違うなにかを感じ手を伸ばす。
 髪の毛に混じって生えているなにかふわふわした物。最初はなにかがついているのかと思ったが引っ張ってみると痛い。どうやら自分の頭に何か付いているようだ。

「またライトの野郎余計なことしやがったな……」

 前にも食事に薬を盛られて兎の耳が生えたことがあった。ライトがやっぱりスバルくんには白いウサミミだねぇとかなんとか言って喜んでいたのでボコボコにした記憶がある。

 ライトに見られると厄介なので頭を押さえながら部屋を出る。部屋には鏡が無い。何が起きているのか確認するためには洗面台まで行く必要があった。
 音をたてないように扉を開き廊下に人影が無いか確認する…どうやら誰も居ないようだ。そっと部屋を出て洗面台へ……

「スーバールーくんっなぁにしてるのかなぁ?そんな風に頭なんて押さえてさ」

 後ろから聞こえたその声にオレは小さく「げっ」っと言葉を漏らした。最悪だ、一番会いたくないやつが来てしまった。

「んふ、頭隠して尻隠さずなんて言うけど、今のスバルくんはさしずめ猫耳隠してしっぽ隠さずってところかな?」
「は?」

 恐る恐る振り返るといつものにやけ面のライトがオレの背中を見つめている。視線の先に目を落とすとそこには何故か白いしっぽが生えていた。

「なんだこれ」

 わけのわからない事態に今日二度目の疑問の言葉が口からこぼれた。

「ライト!これはどういうことだ、あぁ?」
「どうもこうもそういうことだよ。スバルくんに猫耳としっぽが生えてるってこと」
「またお前の仕業か!」
「もぉスバルくんってばすぐにボクを疑うー今回ばかりはボクのせいじゃないよ!まあいい趣味だとは思うけどね」
「どこがだ、悪趣味すぎるだろ」
「えーそうかなぁ。ところで耳としっぽは生えてるけどそれは飾りなの?それとも中身まで猫になったりしてるわけ?」
「知らねぇよんなこと。それよりオレは早くこれを何とかして引っ込めたいんだよ」
「えー似合ってるのに勿体なーい。ねえ、耳触ってもいい?」
「断る」

 こいつに絡むとろくなことになら無いのは今までの経験で痛いほど分かっている。こいつがなんとか出来ないと言うのならさっさと離れてレイジに頼った方がいいだろう。

「ほーらスバルくん、猫じゃらしだよー。んふ、猫にはやっぱりこれだよねー」
「どっから持ってきたんだよんなもん……」

 ほーらおいでーと猫じゃらしを振るライトを見ながらため息をつく。

「オレ、がっ!そんな!ものに!反応!する……とでも!思って……はっ!」
「スバルくん、言ってることとやってることが正反対だよ」

 口から出た否定の言葉とは裏腹に体は勝手に揺れる猫じゃらしに反応し手を伸ばしていた。まさかこれ耳としっぽが生えてるだけじゃなく中身にまで影響があるのか……!?

「んふ、じゃあ感覚まで猫になってるってことなんだね。イイコト思い付いちゃった」

 ライトがオレに近づきしっぽに触れる。嫌な予感がしてその手から逃れようとしたときしっぽの付け根にライトの手が触れた。

「ん……っ」

 しっぽの付け根から全身に突き抜けるような甘いしびれに体の力が抜ける。ほんとうになんなんだこれは

「猫のしっぽの付け根は性感帯なんて話聞いたことあったけどほんとみたいだね。んふ、ちょっと触っただけでスバルくんもうとろけそうな顔してる」
「うる……せ……さわんな……!」
「そんな涙目で睨まれても誘ってるようにしか見えないよスバルくん」

 ライトの指が付け根に触れる度体が跳ねる。くそっなんだっていうんだ……!

「やめてほしいなら猫らしくにゃーにゃー鳴いて見せてよ?」
「だれ、がっ」
「いいから鳴けよ」
「……っ」
「それくらい出来るよね、スバルくん」

 指でくるくると円を描くようになぞられて足ががくがくし始める。最早壁に手をついてなんとか立っている状態だった。

「それともスバルくんはこのまま猫プレイをお望みかな?んふ、それも悪くないけど」

 耳に息を吹き掛けられぞくりとする。いつもなら突き飛ばしてぶん殴ってやるところだが今日はそうはいかなかった。誰だよオレに変な薬を盛った野郎は!くっそただじゃおかねぇ……!

「スバルくん、聞いてるの?それともぉもしかして発情期だったりする?んふ、猫には発情期があるんだもんねぇ……」

 耳を唇と舌で弄ばれ、抗えない快楽に頭が真っ白になっていく。ああくっそ最悪だ

「な、けば……いいん……だろっ」
「やっとその気になってくれた?」

 ライトが手を止めてオレの体をくるりと反転させる。オレを見て案の定ふざけたにやけ面をしているライトに心底腹が立った。それでもここでライトの言うことを聞かないで抵抗し続ければこいつが何をオレにしてくるかなんて考えなくても分かる。羞恥に耐えながら声を振り絞る。この状況から逃げ出せるのなら……一瞬で済むのなら……仕方がないことだと言い聞かせる。

「くっ……にゃぁ……」
「えー何、聞こえなかったなーもう一回言ってよ」

 わざとらしくライトが笑いながらそう言った。絶対聞こえてただろ!

「やめて欲しいんでしょそれならかわいく鳴いて見せてよ。ボクにスバルくんの可愛い鳴き声を聞かせてよ」
「にゃ……ぁっ……!」

 気づくとそれまで止まっていたライトの手がふたたびしっぽの付け根に伸びていた。

「いいねぇその色っぽい鳴き声。んふ、興奮してきちゃった」
「やめるって……言ったろ……!」
「やめてほしいなら、とは言ったけどやめるなんて一言も言ってないよ?んふ、スバルくんってば早とちりなんだからぁ。人の話はちゃんと聞いてなきゃダメだよ?」
「く、そ……変、態……っ!」
「可愛いスバルくんが悪いんだよ。それじゃあ今日は猫プレイしようか。んふ、いつもと違うことするのって楽しいよね」

 涙でぼやける視界に新しい玩具を見つけた子供のように目を輝かせているライトが映る。オレは白く染まっていく思考の中犯人を恨み、そして快楽に抗うようにして唇を噛み締めた……。



猫耳が生えた日
(可愛い声で鳴いて見せてよ)




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