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オレは歩きながらハァ、と溜め息をついた。廊下ですれ違った3年の女子が興奮気味に話していたくだらないことが何故か頭から離れなかった。
『逆巻君っていつも寝てて眠り姫、って感じじゃない!?』
『確かに!』
『男だから眠り王子……?』
『キスして起こしてみたくない!?』
『いいなぁそういうの!憧れるかも』
くだらないと思いながらも頭には机に伏せて眠るシュウの顔が浮かんでいた。眠り王子?王子というかニートだろ……。
シュウの教室にたどり着き教室の扉を開ける。するとそこには眠り王子とか言われてた通り机に突っ伏して眠るシュウの姿があった。授業が終わったのならさっさと迎えの車の待つ玄関まで来れば良いものを……。
「なんでオレが呼びに来なきゃならないんだ。レイジのやつ同じ3年なら自分で呼べばいいだろ」
ぶつぶつと文句を言いながら眠るシュウの横に立ちその肩を揺する。
「起きろ、帰るぞ」
「……」
「おい……いつまで寝てるつもりだ」
「うるさい……別に置いていけばいいだけの話だろ……オレは一人で帰る……」
「お前を連れていかないとオレがレイジに怒られるんだ!おら起きろ!」
激しく揺さぶっても起きるつもりは全くないのか小さく文句を言いながらも動こうとはしない。
「やっぱり眠り姫なんかじゃなくニートだったろ」
皮肉を込めてそう呟くとシュウが机に突っ伏したままくすくすと笑った。
「何、オレが姫に見えるわけ?」
「んなわけねぇだろ!多分お前のクラスの女子が言ってたんだよ。お前が眠り姫みたいだって」
「ふーん」
するとシュウが顔だけオレのほうに向けて口の端だけ持ち上げてにやりと笑った。なんだか嫌な予感がする。
「眠り姫は王子様のキスで目覚めるんだろ?ならオレもお前のキスで起きる気になるかもしれないぞ」
「はぁ!?」
何を言い出すのかいつは……寝過ぎて脳味噌が冬眠してるんじゃないか?舌打ちをしてシュウのカーディガンを引っ張ってみるもびくともしない。本当にこいつオレがキスしなきゃ起きないつもりか?
「キス、しないのかよ」
「し、しねぇよ!!」
「そう、じゃあオレは寝る」
「なっ!」
シュウはもう一度うつ伏せになり眠ろうとする。どうしようか悩んでいるとすぅ…と小さく寝息が聞こえた。
「どんだけ寝るの早いんだよほら起きろ!」
さっきよりも激しく揺さぶると不満そうにしてシュウが起き上がる。
「結局何したいわけ?キスする気無いなら帰れば?」
「だぁもうめんどくせぇ!」
シュウのブラウスの襟を掴み無理矢理引き寄せ、その唇に自分のそれを重ね、そして突き飛ばす。
「ほら、これで文句無いだろ!」
「はっ……それがキス?お子様だな、お前」
「はぁ?まだ文句言うのかよ……っ!?」
シュウの端整な顔が近づいてきてとっさに目を瞑る。……しかしいつまでたっても何も起きない。疑問に思い恐る恐る目を開くとシュウの深い海のような青い瞳と視線がぶつかった。
「オレからキスされるの期待してたわけ?」
「そんなんじゃ、ねぇ、けど……」
「じゃあお望み通りしてやるよ」
くいっと顎を持ち上げられシュウの唇がオレのそれに触れる。キツく唇を結んでいたはずなのにシュウの舌がオレの唇を抉じ開け口内へ新入してくる。ねじ込まれた舌がオレの舌を絡めとり自分達しかいない教室に水音がやけに響いて聞こえた。
「な、にすんだよ……!」
「キス、されたかったんだろ?だからしてやった。くくっ面白いくらい顔真っ赤になってるぞ……」
「っ……!」
「面白いもの見れたし今日はこれくらいにしてやる」
くすくすと笑いながらシュウが気怠げに席を立つ。なんでこんなにも動揺してるんだ……それに多分今のオレの顔はシュウの言う通り真っ赤になっているだろう……それがわかるくらい頬が熱い。
「何突っ立ってるんだ、お前が呼びに来たのに今度は帰らないつもりかよ」
「ちげぇよ!おら行くぞ!」
俯き、シュウを追い越して教室を出る。廊下のひんやりした空気のお陰で少しだけ火照りがおさまった気がする。
「これからもお前のキスで起きてやるよ」
「二度とするか!!」
そう吐き捨ててオレは他の兄弟が待つリムジンへと早足で向かった。
眠り姫にキスを
(それは浪漫の欠片も無い童話)
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