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 棺桶の中はオレの空間だ。全てのものが遮られて、閉じてしまえば光ひとつ入ってこない居心地の良い空間。ここに居れば落ち着くし安心する。誰にも睡眠を邪魔されることも無いのだから。

「……ぁ?」

 なんだか息苦しさを感じて目を覚ますとオレ以外のなにかが棺桶の中にいるようで、ソレに体が圧迫され窮屈だ。眠るときには確かに何も無かったはずだが……。
 疑問に思いながらソレを押し退け棺桶の蓋を押し上げる。月の光が隙間から差し込みソレの姿がはっきりと浮かびあがり、オレは舌打ちをした。

「ライト、なんで勝手に人の棺桶に入ってんだ気持ちわりぃ!添い寝してもらう相手間違えるんじゃねぇ!」
「んー何ぃ……?もう学校の時間なの……?」
「寝ぼけてんじゃねぇよ!」

 ライトを強引に棺桶の外に引きずり出しぶん投げる。痛いよスバルくんと頭を押さえながら文句を言うライトを睨み棺桶へ戻る。

「あーちょっと、なんでボクを追い出してまた眠ろうとしてるのさ!」
「なんで男と一緒にこの狭い棺桶で眠らないといけないんだよ」
「なんでって……ボクがしたいからに決まってるじゃない?んふ、それともぉスバルくんはボクの部屋のベッドの方が良いのかなぁ?」
「寝言は寝て言え」
「照れちゃってーほらほら行くよー」

 強引に腕を捕まれそのまま引きずられるようにして部屋の外へと連れ出される。身の危険を感じて思いっきりライトの脛に蹴りを入れると呻きながら蹲り、涙目でオレを睨んでくる。

「いったいなぁっ!スバルくん、暴力はダメだっていつも言ってるでしょ!?」
「はっ知るかよ。お前が勝手に人の部屋に押し掛けてきて連れ出そうとするからだろ」
「お兄ちゃんが添い寝してあげるって言ってるんだから素直に受け入れてくれればいいじゃない!」
「お兄ちゃんとか気持ち悪いんだよ!」
「素直じゃないんだからぁ」

 脛を撫でながら力無く立ち上がったライトにもう一発蹴りを入れて倒れた隙に部屋に戻り鍵をかける。バンパイア相手に鍵なんて意味がないことは分かっているが気休めにはなる。そしてまだライトが部屋に入ってきていないことを確認して棺桶に入り、蓋を閉じる。寝る、もうどんなに邪魔されようと眠る!そう誓い目を閉じる。アイツには付き合うだけ無断だ!

「スーバルくん!」

 リズミカルに棺桶をノックしながらオレとは対照的に楽しそうな声でライトがオレの名前を呼ぶ。うぜぇ、心底うぜぇ

「スーバールーくーん!お兄ちゃんとあっそびーましょー」
「……ぜぇ……」
「なぁにスバルくん?」
「うぜぇんだよ!」

 内側から思いっきり棺桶に拳を叩きつける。反応すれば調子に乗るのは分かっているがそろそろ我慢の限界だ。

「だってスバルくんが出てきてくれないんだもん。ボクはスバルくんと遊びたいんだけどなー」
「オレは別に遊びたくないし関わりたくないんだよ、消えろ」
「うーん仕方ないなーじゃあビッチちゃんと遊ぼうか」
「なっ」
「んふ、ビッチちゃんならきっとボクと遊んでくれるよね」
「ざっけんな!」

 こいつがユイのところに行くのは許せねぇ!そう思い棺桶から出たのが間違いだった。

「あ、やっと棺桶から出てきたねーはい、確保」

 後ろから抱き締められる形になり、ライトの息が首筋にかかる。これは本気でまずい。そう思い本気で肘打ちしたが、ライトがもっともっとぉ!と興奮するだけだった。

「離せ変態。オレは変態を喜ばせる趣味はねぇ」
「ボクはそんな風にしてるスバルくんにイタズラする趣味があるからね。それに、本当に嫌ならもっと抵抗すればいいんじゃないの?」
「うぜぇ」

 わかってるくせにぃと気色悪い声で言うライトを横目で睨む。この気持ちは知らないし分かりたくもない。こんな気色悪いやつに特別な感情なんて抱くはずがない。

「んふ、まあ素直なスバルくんなんてスバルくんじゃないし、スバルくんはそのままでいてよね。それじゃあそろそろいただきまーす」
「は……?っぁ!」

 突然の皮膚を割って牙が入ってくる感覚に不覚にも声が漏れる。完全に油断していた。

「はぁ……スバルくんの血……やっぱり美味しいよ……んふ……」
「い……ってぇんだよ……クソッ……!」
「んふ、でもボクがビッチちゃんの血を吸うよりはマシだって言うんでしょ?だったらボクがスバルくんで満足するようにしないと」

 わざと音を出しながら、喘ぎながらオレの血を啜る。最悪だがオレが犠牲になればこいつがユイに手を出さないと言うのなら仕方がないことだ。

「……っ!」
「ん……スバルくん……感じてる……?はぁ……スバルくん可愛い……」
「かん、じてねぇ……っ!」
「嘘ばっかりーふぅ……なんか感じてるスバルくん見てたらボクも気持ちよくなりたくなってきた、ねえスバルくんボクの血吸ってよ」
「誰、が」
「いいのかなぁ?ビッチちゃんのところに行っても」

 コイツはこう言えばオレがどうするか完全に分かっているんだろう。オレもオレでその通りに動いてしまう。吐き気がする。コイツに、自分に。
 ライトの方を向き、首筋が見えるようにシャツを破る。ユイの為だと言い聞かせてそれだけを考える。自分が今何をしているのかは深く考えないようにしていないと耐えられない。ライトはそんなオレをにやにやしながら見ている。くっそ今すぐこいつを殺してやりたい。

「……っ」
「ん、スバルくんのが、ボクの中に、入ってくる……あぁ……いいよ、いいよスバルくん、もっと、もっと突き立てて!ボクに痛みと快感をもっと頂戴!」
「気色悪いこと言ってないで黙ってろ!」

 牙を突き立て、傷口を吸い上げればライトの甘ったるい血が喉に流れ込む。相変わらず胸焼けするほど甘ったるい血だ。これでコイツの血がうまければ少しはマシだったんだろうなと思ったところでそれはそれで腹が立つ!と牙を思いっきり突き立てる。

「あんっもう、スバルくんってば、乱暴なんだからぁ」

 気色の悪い喘ぎ声は耳に入れないようにして溢れでる血を飲み下す。本当に何をしてるんだか、オレもコイツも。

「それにしてもスバルくんって分かりやすいよねービッチちゃんの名前を出せば簡単にホイホイのって来るんだから」
「うるせぇ」
「でもそれって本当にビッチちゃんの為なのかなぁ?んふ」
「は?」
「それを口実にして自分の行動を正当化しようなんて思ってないよね?本当はそれを望んでるのはスバルくんなのに」
「あるわけ無いだろとうとう完全に脳みそイカれたんじゃないのか?」
「んふ、自覚が無いのか認めたくないのかどっちなんだろうね?まあボクはどっちでもいいけど」

 全てを見透かしたように笑うライトを睨み、立ち上がる。

「スバルくん?」
「もう我慢の限界だ、出ていけ」
「あれあれぇ?図星だったからって怒ってるの?スバルくんってばほんとにオコサマなんだから」

 バカにしたような口調に募っていた苛立ちが膨れ上がり抑えられなくなる。もう本当に限界だ。そのままライトを思いっきり蹴り飛ばし、体勢を立て直そうとしているライトの腕を掴み、そのまま窓を開けてそこから放り投げる。何が起こったのか分からないといった顔をしながらライトは窓の下へと落ちていった。

「あーもうやってられねぇ」

 口元と首筋についた血を拭いユイの部屋へと向かう。自分で守ればいいだけのことなのだ。あんなやつの言いなりになる必要など無い。全部、全部ユイの為なのだから。理由なんてそれだけのこと。

「腹いせにアイツを抱き枕にして眠ってやる」

 そう呟きながら乱れた服を正しながらユイの部屋の扉をノックした。




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