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「ねえヒラサカ様、折角子供を作れるようになったのにいつになったらヒラサカ様との子を授かれるの」

 少女がーー……厳密に言えばまるで人間と違わぬ見た目の機械仕掛けの人形が男の頬を撫でる
 嫉妬する心を得た、我が儘に振る舞うことを覚えた、主人の命令にだって逆らえる、そして子供だって宿すことができる。人としての要素をすべて得た、それなのに最後の最後で希望は潰えた。

「ヒラサカ様と子を成していつまでも二人生きていけるとそう信じていたのに」

 その精を求め、行為の真似事をしたところで子を為すことは出来ない。彼は死んでしまったのだから。
 せめて彼の記憶を封じ込めた指輪だけでも、と積み重なる死体をどかし隅々まで探したがそれも見つからなかった。そもそも見つかったところでハルミ博士も死んでしまった今、誰も復元など出来ない。

「それならどうして子を成せる様になったの…ヒラサカ様がいないならこんな機能…やっと、やっと同じになれたと思ったのに…」

 泣き崩れ男の亡骸にすがり揺り動かす。するとキーンと微かに何か金属の何かが落ちたような音がした。もしや、と思い辺りを探るとそこにはあんなに探しても見つからなかった男の指輪があった。

「ああ、やっと見つけた……っ!」

 その指輪をぎゅっと握りしめ胸に抱く。それと同時にばたばたと何人かの足音が聞こえた。すると人形は膝を折り男の頭を自分の膝に乗せ覗き込むようにして微笑む。

「きっといつか私たちの記憶を復元してくれる誰かが現れる。何年後、何十年後、いいえ何百年も先、私もヒラサカ様も忘れ去られた遠い未来にきっと」

 その足音は次第に近くなり、人形は何かを悟ったように一度天を仰ぎそれから男の唇に自分のそれを重ね、微笑む。

「それまで一緒に眠ろう」
「人形を確認、射殺します」
「一緒にあの世で」

 黒い服を纏い銃を持った女達が二人を取り囲むように立ち、そしてその銃を二人に向けて発射する。いくつもの銃弾が人形と男の身体を貫き、あたりに血が飛び散っていく。そうして銃声がやむ頃にはもう人形は動かなくなっていた。




「……様……サカ様……ヒラサカ様!」

 人形の声に男はハッとして辺りを見回す

「それでは指輪の交換を」
「これ、は……?」
「ヒラサカ様、指輪を」
「え、ああ……」
「でも本当に指輪が見つかってよかった」
「え……?」
「ううん、こっちの話。せめて今だけでも、幸せでいよう?」

 その言葉に違和感を抱きつつも男は人形と指輪を交換する。なにか大事なことを忘れている気がするのになにも思い出せない。祝福され、幸せなはずの結婚式、愛する人形が目の前にいて微笑んでいるのになにかが違う気がする。だがなにも思い出せなかった。

「思い出せないのならきっと大切なことじゃないのよ」

 そう言ってシスターが笑う。思考を読まれたような気がしてぎょっとした。……この顔をどこかでみたような気がするが誰だったか……?

「ヒーラーサーカーさーまー!」
「ああ、すまない!」

 まあいいかと人形に向き合う。幸せなんだからそれでいいのだと自分に言い聞かせ目の前で目を閉じる人形の唇に自分の唇を重ねた。



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