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 リツカにとって大切なモノだったであろう人達の死体が積み上がるこの部屋はまるでリツカにとっての宝箱みたいだ。大切なものだけ詰め込んで、ずっとそばに置いておく。でも別に俺はそんな宝箱を作りたかったわけじゃない。

「ねえリツカ、もうこの町の人はほとんど殺しても、それでも前みたいにその表情を変えてはくれないんだね」

 絶望どころかその感情の一切を写さなくなってしまったリツカの瞳を覗きこむ。確かにそこに俺は写っているのになにも反応してくれない……生きながらに心は死んでしまった。きっとリツカなら俺のところに堕ちてきてくれるとそう信じていたのに……。

「また俺をゾクゾクさせてよ……ねえリツカ……どうしたらキミはまた絶望の色に染まってくれるの?」

 もうこれ以上リツカが大切に思っていた人なんてーー……

「……ああ、イイコト思い付いちゃった」

 死体に突き刺さるナイフを引き抜き自分に向ける。リツカにはもう俺しかいない、それならその俺がいなくなれば今度こそまた絶望してくれるはず。

「さよなら、リツカ」

 勢いよくナイフを胸に突き刺しその痛みに喘ぐ。こんなんじゃ死なない、もっともっと、奥深くまで。リツカに見せつけるみたいに。

 辺りを自分の血で染めながら最期に朦朧とした意識のなかで見たのは目を見開いて何かを言おうと口をパクパクさせたリツカの姿だった。ああ、やっと絶望してく、れた、ねーー……










 どれくらい時間がたったのかわからない。考えたくもない。空虚な時を過ごし目の前で起きる惨劇をどこか遠いもののように見つめる、そんな生活。
 多分これからもそれがずっと続いていくのだと思っていた。それでもシキがそんな私のそばにいてくれる、その事でたくさんの人が殺されてしまうとしても……。でももうそんなことどうでもいい。シキがそばにいてくれるというその事実だけで十分。そんなことをぼんやりと回らない頭で考えていた。

「ーー……なら、リツカ」

 シキが何かを言っている。そしてそばにある死体からナイフを引き抜いて……自分の胸に突き刺す。何をしているの?一体何が起こっているの?その瞬間心臓がドクンと跳ねどこか遠くにあった意識が一瞬にしてその体に戻る。

「ーー……っ……!!」

 もう声の出し方も忘れてしまったのか必死に叫んでも掠れた音が出るだけだった。倒れていくその体を抱き締めたいのに体は鉛のように重くて思うように動かない。必死にその手を伸ばすもシキはすり抜けてべちゃりと嫌な音をたてその床に倒れる。

「……きっ!し、き……!」

 例えそばにいることで死体を積み上げることになっても私は

「しき、が……そばにいてくれるなら……それ、で……よかったのに……」

 床に崩れ落ち泣き叫ぶ。もういくら泣いたって取り戻せない。積み上がる死体の山と愛しい人の亡骸。何をどこで間違えてしまったのかわからない。きっと幸せになれる道だってあったはずなのに。
 ぐらぐらと視界が揺れてその絶望に胸が潰されそうになる。いくら私が絶望してももうそれを見て喜ぶ堕天使もいない。本当に、本当に独りぼっちになってしまった。

「独りにしないでよ、シキ」

 視界が黒く歪んでいく。また耐えきれなくなった心が壊れようとしている。多分、今度こそ二度とその心が戻ることはないだろう。それでもいい。どうせもう私には何もないのだからーー……



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