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 みんな、みんな傷ついていく、私のせいで、私の中のグリモワールのせいで。
 ぼろぼろになったみんなを助けたいのにノエルの腕に拘束された私はどうすることもできずただそれを見ていることしかできない。

「こんな力……いらなかったのに……」
「そんな大層なものを宿してしまった自分の運命を嘆くんだな。そんな甘い匂いを放って色んなものを引き寄せながら自分ではどうにも出来ないなんて本当に人間は愚かでつまらない生き物だな」

 ぼそりと呟いたその言葉にノエルが反応して嘲笑うようにそう言う。反論しようにもそれは事実であり、現に私はノエルの拘束を振り払うことができずにこうしている。

「それか――」
「それか、何?」
「お前がグリモワールの力を俺に寄越すと言うなら全てを終わらせてやろう。ヴァンパイアもアクマもその力が誰のものでもないから争う。それなら誰かに捧げてしまえば全ては丸く収まる。生憎俺は世界やらアクマを滅ぼすことには興味がない。つまりネスタ様やアクマなんかに渡すよりよっぽど安全だ」

 その言葉は蛇の甘言のように私の中に響く。それはいけないことだとわかっている、それでもみんなが自分のせいで傷ついていくのをただ見ているのには耐えられない。

「この争いを納めるぐらいならその血を全て飲み干さなくとも少し取り込めれば十分だろう。それで全てが終わりお前は無事17歳の誕生日を向かえただの人間になる……お前にとっても悪くはない話だろう?」
「本当に、本当に全てを終わらせてくれるの?」
「ああ約束しよう。ヴァンパイアは嘘を嫌うからな」
「わかった……お願い……あなたにこの血を捧げるから……この戦いを終わらせて……もうみんなが傷つくところは見たくない……!」

 首筋に息がかかるのを感じてぎゅっと目を瞑る。ずぶりと牙が肌を突き破って侵入してくるのを感じ、痛みと恐怖に悲鳴が漏れそうになるのを抑え飲み込む。
 血が少しずつ失われていくのと共に頭がぼーっとして何も考えられなくなっていく。誰かが私の名前を叫び、また他の誰かがノエルの名を叫んでいるような気がしたが、まるで遠くで起きてた出来事のようでそれが誰なのか正しく認識することは出来なかった。

「……っ、はぁ……最高だ……力が溢れだしてくる……これが禁断のグリモワールの力……っ!」
「のえ、る……」
「ああ分かっている。少しそのまま目を閉じていろ。その間に終わらせてやろう」

 拘束がほどけた瞬間私は力が入らずそのまま倒れそうになったが、ノエルが支えてくれたおかげで倒れずになんとかその場に座ることができた。

 目を閉じていて何が起こっているのかはわからなかったがノエルの狂ったような笑い声と誰かの断末魔が響き、床に倒れていく音が聞こえる。見たくない、これが誘いに乗ってしまった私が望んだことだとしても。

「リツカ!」
「れむ、さん……?」
「今そっちに……!お前……っ!」
「させるか!」
  
 こっちへ近づいてくるその声に目を開きそうになったときべちゃり、と嫌な音をたてて何かが床に落ちた。そして私の頬に飛んできた生暖かい液体……脳裏によぎった光景を必死に振り払いきつく目を閉じる。誰かがレムさんの名前を必死に呼んでいる、別の誰かが何かを叫んでいる。こんなの違う、違う、よく知った声が私の名前を呼んでいる声が聞こえる、嫌だ聞きたくない、みんなが傷つくのが見たくなかったはずなのにどうして……耳も塞ぎ蹲る。何も見えない、何も聞こえない、もうすぐ17歳の誕生日がくる、そしたらまたいつもみたいに――

「……カ、リツカ」

 肩を揺さぶられはっとする。どれくらいそうして蹲っていたのかは分からないがもうなんの音も聞こえなかった。

「全部終わったぞ、リツカ」

 そう優しく私に語り変える声にゆっくりその目を開く。私の目の前には優しく微笑むノエルが……

「もうグリモワールを求めお前を狙うやつはどこにもいない」
「ぁ……」

 その顔は返り血で濡れて美しい銀髪には赤黒く染まっており、中に着ている服は白かったことを忘れさせるぐらい真っ赤だった。

「どうしたリツカお前が望んだことだろう?みんなが傷つくところをもう見たくないと、この争いを終わらせたいと、そう言ったのはお前だ」

 ノエルが立ち上がり私の手を引く、よろけながら立ち上がり見た光景はまさに地獄絵図というのにふさわしいものだった。
 体を引き裂かれ血溜まりに沈む死体……どこを見ても死体だけ、もう生きているものはどこにもいない。

「死んでしまえば傷つくこともない、争いを起こすこともない、そうだろう?」

 全てを拒絶するように目を閉じて耳を塞ぐ、こうすればもう何も見えない、何も聞こえない。元通りの静かな日常のように。そうだ、何も起きなかったんだ、何もなかったんだ。
 心がぐらぐらと揺れて崩れ落ちていく。まともな思考が失われてそしてやがて完全に心が壊れてしまったのか何も感じなくなっていく。

「お前は俺のものだ」

 首筋に突き立てられる牙の痛みを受け入れる、そう、はじめから私とノエルだけ。

「ノエルはどこにもいかないで」
「ああ、約束しよう」

 たぶん最初からこの人が好きだったんだ。ずっとずっと。そういうことにしておこう。だから私とノエルさんがいれば私は幸せ、幸せなの。

「愛してる」

 そうやって私は永遠に壊れた心のまま現実逃避し続けるんだろう。現実はもう、遠く彼方に消え去って私には、見えない。
 














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前に使ってたスマホから出てきたので。
ノエリツが見たいです



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