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そんなつもりはなかった。ただその背中を見かけて追いかけただけだった。貴方が他の女の人といるのはいつものことだったし、みんなそれをわかっててそばにいる。だから声をかけようとそう思っただけだったのだ。
「ぁ……っ……い、や……」
「……んっ……はぁ……やっぱりビッチちゃんの血には遠く及ばないけどまあ渇きは少しは癒えたかな」
ーー今彼は何をしているの……?
目の前の光景に思考が停止する。なぜあの女の人は血を流してぐったりしているの?なぜ彼は彼女の血でその口元を汚しているの……?まさか、まさか……
「吸血鬼、なの……?」
その声で彼は私がそこにいることに気づいたようでゆっくりと此方を向きいつものようににんまりと笑う。そのいつも見ているはずの笑みがとても恐ろしいものに思えて震えが止まらない。
「あーあ、バレちゃった。君はまだ先のつもりだったんだけどなー」
一歩、また一歩と彼が近づいてくる。逃げ出したいのに足が地面に縫い付けられてしまったように動かない。距離を詰められる毎に体の震えが大きくなっていく。
「私も、殺す、の?」
「まあそうなるかな?んふ、でも安心して、とびっきりイイ気持ちにさせてあげるから」
「嫌……私は……死にたく」
「それはキミが決めることじゃない。だってキミはボクのビッチちゃんなんだから」
ぎゅっと抱き寄せられる。彼の匂いがしていろんな感情がぐるぐるとかき混ざって頭がくらくらする。こんなはずじゃなかった、そんなつもりじゃなかった、そんな風に言い訳して何とか逃れたいと思っても頭が上手く働かない。
「愛してたよビッチちゃん、それなりにね」
首筋に鋭い痛みを感じたあと痛みと快楽と気が遠くなる感覚がぐるぐると回り一つになって溶けていく。意識が落ちる寸前最期に見た彼は私の血が喉元まで伝っていてそれがどうしてかとても美しくて、ああ私はこんなときでも彼を愛しているのだとそう思いながら、意識が暗い闇の奥底へと引きずり込まれ、そしてやがて消滅した。
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