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「今日は節分ということであのお方から豆まきをしろとの達しが出ている」

 買い物へ行っていたルキが帰宅するなりリビングでくつろいでいた三人へそう告げ、手にしていた買い物袋の中から取り出したものをテーブルに並べた。
 豆の入った袋とデフォルメされた可愛らしい鬼が描かれた紙製のお面がひとつ、三人はそれが何を意味するのか分からず首をかしげた。

「豆まきだぁ?」
「ああ、邪気を払うため一年に一度春分の日の前日に行う行事だそうだ。鬼役に鬼は外、福は内といいながら豆をぶつけるらしい」
「なにそれ変なのー」
「豆を……ぶつける……」
「この通り豆と鬼の面は調達済みだ。あとは鬼役を決めることと恵方巻の準備だな」
「エホー……マキ?ねえねえルキくん、それも節分の行事なの?」
「ああ、節分の日にその年の恵方を向いて恵方巻きを食べることで無病息災を願うものだそうだ」
「オレらヴァンパイアが無病息災の祈願って……」
「まあそういうな、恵方巻きの具材は用意してあるから俺が作る。豆まきはお前たちでやっておいてくれ」

 そう言ってルキは買い物袋を持ちキッチンへと消えていった。残された三人は顔を見合わせる。

「じゃあおれたちのうちの誰かが鬼になって、残りの二人が豆をその一人にぶつけるってこと?」
「みてぇだな。で、鬼は誰がやるんだ?」
「そこはユーマくんでしょ!的が大きいから当てやすいし、ユーマくんなら丈夫だから思いっきり豆ぶつけても大丈夫そうだしね!」
「はぁ?なんでそうなるんだよ!そういうお前こそ鬼をやっておいた方がいいんじゃねぇのか?邪気払って仕事も舞い込むかもしれないだろ」
「そんなことしなくてもおれは引っ張りだこの超売れっ子アイドルコウくんなんだからいーの!」

 コウとユーマがそんな言い争いをしているなかアズサがテーブルに置かれた鬼のお面に手を伸ばす。二人はそれに気づかず言い争いを続けていた。

「じゃあここは公平にじゃんけんしよう!」
「はっぜってー買ってコウを鬼にしてやるよ」
「ふふん!おれじゃんけんには自信あるんだから!なかなかに強いんだからね〜!運命の女神様はおれに味方してるんだから」
「はっそれはどうだろうな?……っとじゃあアズサもじゃんけん……を?」

 ユーマがアズサの方を向くとすでにアズサは鬼のお面を頭につけ目を輝かせてユーマのことを見ていた。ゲッ、とユーマが小さく声を漏らす。アズサがこういう顔をするときはどういうときなのかユーマはよくわかっていた。

「ねえ、俺に思いっきり豆をぶつけて……?」

 やっぱり、とユーマがため息をついた。多分こうなるとアズサは引かない、だがアズサに豆をぶつけるなどユーマには出来なかった。それはコウも同じようで困ったような顔でアズサを見ていた。

「アズサくん、鬼はじゃんけんで決めよう、ね?」
「だって……コウもユーマも鬼は……やりたくないみたいだったし……俺豆をぶつけられたい……だから、ね?」

 アズサがテーブルに置かれた豆の袋をユーマに押し付ける。そしてほら早く……と両手を広げた。

「遠慮しなくても、いいんだよ……?思いっきりぶつけて?何も気にしなくていいから……」
「お前が気にしなくてもオレが気にするっての!」
「あーあどうするのユーマくん。これじゃあ豆まき出来ないよ?」
「そんなこと言ったってよ……」

 豆を軽くぶつけるだけとはいえアズサに投げるのはなんだか罪悪感があっる。いくら本人が望んでいることでもコウとユーマにはそれは出来なかった。

「でもあの人のお達しなんだよね?じゃあ……やらなきゃだめ……?」
「……っ!でも……アズサに豆をぶつけるなんてそんなこと……!」

 二人が葛藤していると完成した恵方巻きを持ってきたルキが「まだやっていなかったのか……」と呆れたように言ったあとアズサが鬼は面をつけていることですべてを察したようで「なるほどな」と呟いた。

「アズサくんに豆投げるなんておれには無理だよ……」
「仕方がない……まあいいだろう、必ずしも鬼を追い出す必要はないらしいからな」
「どういうこと?」
「鬼を神として奉っている地では追い出さず鬼も内とするところもあるようだ。だからそれに倣うことにする」
「じゃあ……豆はぶつけてくれないの……?」
「そんな残念そうな顔しないでよアズサくん!ほらほらルキくんお手製のエホーマキ食べよう、ね?んっこれおいしい!」
 
 コウがいつのまにか皿から取っていたらしい恵方巻きを頬張りながらおいしいよ?とアズサにも一本差し出す。それをアズサが受けとりじっとそれを見ていた。

「コウ、勝手に食べるな……それに恵方巻きは決められた方角を向いて無言で食べるという決まりがあるんだ」
「えーもう喋っちゃったし方角も全然わからないんだけど」
「コウは無病息災のお願いは失敗ってことだな、一人だけ風邪ひいて寝込むことになるかもな」
「そんな縁起でもないこと言わないでよ……」
「で、今年の方角はどっちなんだ?ルキ」
「たしかこっちの方角だ。こっちを向き食べ終えるまでは喋ってはならない、いいな?」
「もう食べちゃったんだけど」
「半分……食べる……?」
「え、いいのアズサくん!ありがとうー!」
「恵方巻きは一本のままで……と、遅かったか」

 ルキが止めるよりも先にアズサがその手にある恵方巻きを二つに割りコウに渡していた。

「やっぱうちの鬼はそとに追い出すべき存在じゃねぇな」
「そうだね!優しい鬼なら大歓迎だよ!」
「まあそういうことにしておこう……ほら、食べるぞ」

 ルキのその声で四人揃って恵方巻きにかぶりつく。そして無言で食べ進める。
 しばらく経ち四人全員が食べ終わったことを確認してアズサが口を開いた。
 
「これで今年一年も……みんなといられる……よね?」
「一年どころかずーっとおれたちは一緒だよ!」

 その言葉にユーマとルキも頷き笑い合う。そうして無神家の節分は平和な内に幕を閉じたのであった。



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