あなたの星がどれであるかもわからない。そして例えわかったとしても、夜空に伸ばしたこの手がその星に触れることもない。でも本当に憎らしいのは、あなたの星に届かないわたしの手のひらが、未だにあなたの体温を忘れないで覚えていること。あなたはもうここにいない。あなたはもう絶対にここには帰ってこない。それなのに、諦め悪くわたしの手あなたに触れた感触を忘れてはくれない。それがとても憎らしくて、ときどき切なくなって泣きそうになる。
『あんたの記憶から、僕に関わる全ての記憶を消してやってもいい』
お別れの日、あなたがわたしに提案したのはとても残酷な言葉だった。いつもみたいにわたしの目を見ないで、目を逸らしてそれを言ってくれたなら、幾分か気持ちはマシになったのに。マシになったかもしれなかったのに。その日のあなたは、星のように綺麗なその目でまっすぐとわたしを見て、言った。
きっと僕のことを覚えていたら、きみは辛くなる。だけど僕はもう、自分の星に帰らなくちゃならない。僕らはこの星に来た目的を果してしまった。きみには、悪かったと思ってる。いなくなることがわかっていたのに、僕はきみに恋をした。僕はこの気持ちを抑えるべきだったのに。本当に……ごめん。
あなたが素直な気持ちを教えてくれたのは、これが初めて。正直な話、わたしはこの話をされるまであなたに自分が愛されているのかよくわからないで、自信を持てないでいた。いっそこんなこと聞かないで、あなたに愛されてる自信を持つ前に、あなたが勝手にわたしの記憶をリセットしてくれたなら良かったのに。そしたらわたしは今、こんな風にあなたに恋い焦がれて涙を流す必要もなかったのに。あなたは自分勝手だ。あなたは出会ったときからそうだった。だって愛する人にちゃんと愛されていたことを知って、その気持ちに蓋をしてしまいたいだなんて普通は思わない。あなたはわたしに、記憶を消さないで欲しいって、言って欲しかったんでしょう。あなたのせいよ。わたしがいま、寂しいのは。
「夜、天」
あなたの名前を宇宙に向かって囁く。この声が、何億光年向こうにいるあなたに届くだなんて思って呼んだわけじゃない。
わたしはわたしのためにあなたの名前を紡ぐ。あなたに会えないのが悲しい。あなたに触れられないのが辛い。あなたの目にわたしが映らないのに堪えられない。これはそんな全部の気持ちを抑えこんでくれる、特別な魔法。あなたと出会えた奇跡。あなたと思いあった喜び。あなたを触れた温もり。この魔法はそんな幸せな記憶を呼び覚ましてくれる。
あのね夜天。わたしはあなたのせいで泣いてるよ。わたしはあなたに逢いたくて、焦がれてる。だけど勘違いはしないで欲しいの。あのね夜天わたしはね。
「大好き、だよ」
あなたに出会えたことが、幸せだったよ。寂しくても、あなたがわたしの記憶にいてくれるのが、嬉しいよ。あなたに、恋をして良かった。
流転している世界の果てで再び会う約束をしました