ガンガンガンガン、と警鐘が鳴り響いた。それと同時に空が割れ、光の球体がその割れ間から侵入してくる。そして光は四方に散った。何が起きているのか、すぐには理解が追いつかない。「旅禍が侵入したぞ!」周囲から聞こえてきた声にやっと状況がわかってくる。門から侵入できないからって、何もあんなところから入ってこなくともいいのに。途端に騒がしくなった周囲に比べて、わたしは幾分か落ち着いてそれを見つめていた。その理由は簡単だ。自隊の隊長が、不思議なほどにとても落ち着いていたからだ。


「日番谷隊長?」


声をかけてみて気が付く。隊長は落ち着いていたが、何も考えていないわけではなかった。いつも深い額のシワを、さらに深めて唸る日番谷隊長には、どうやら小さくかけたわたしの声は届かなかったようだ。


「日番谷隊長!」


もう一度、少し声を大にして日番谷隊長の名前を呼んだ。すると今度はちゃんと聞こえたのか、日番谷隊長がどうしたのかと言わんばかりの顔で振り返る。その顔はやっぱり何かに悩んでいるようで、真剣だった。


「あの、日番谷隊長は、追わないんですか」

「…ああ」


短く返された言葉に、何故と疑問を抱かなかったわけではない。それでもわたしがさらに言及することはなかった。日番谷隊長が追わなくていいと言うのだから、きっと追わなくていいんだろう。お前は追いかけろ、と言われないということは隣りにいていいということなんだろう。わたしは日番谷隊長の沈黙をそう受け取った。何より、神妙な顔つきで思案する日番谷隊長の邪魔を、これ以上はしたくなかった。


* * *


あれからしばらくが過ぎた。目まぐるしい早さで状況は動いていく。たくさんの優秀な隊員たちが倒された。更木隊長や阿散井副隊長までもが倒され、旅禍たちには一度洗罪宮への侵入を許した。そんな中でわたしは正義を見失いそうになっていた。旅禍たちが、命を賭してここへ侵入してきた理由が、処刑が決まっている”朽木ルキア”女史を救うためだという噂を聞いてしまったからだ。普通、ただの悪人が1人の死神を助けるためにここまでするだろうか。有り得ない、夢みたいな現実に、わたしみたいな煩悩の頭ではついていかなかった。


「…雛森」


そして状況はまた悪い方へ、悪い方へと転がっていく。藍染隊長が旅禍に暗殺された。それを何故か、雛森副隊長が市丸隊長の仕業と勘違いして、襲い掛かった。それを止めようとした吉良副隊長と、雛森副隊長は現在牢に入れられている。日番谷隊長がそうした。だけど日番谷隊長は雛森副隊長の幼なじみだ。日番谷隊長はそれからずっと雛森副隊長のことにばかり心を砕いた。そしてわたしは今、隊主室の戸に背を向けながら空を眺め、立ち尽くしていた。他の隊の隊員から書類を預かったので、渡しに来たのだ。だけどこうして悩んでいる日番谷の声を聞くと、どうしても戸を開けれなくなった。日番谷隊長はきっと、今は書類どころではないに違いない。


「…出直そう」


書類はまた後で渡せばいい。そう思ったわたしは仕方なく踵を返した。


* * *


それから数日が過ぎた。ついに事態は終結した。いや、一段落ついて悪化したと言うべきだろうか。現在旅禍であった人間たちは正式な客人として静霊廷に留まっている。驚くべきことに、藍染隊長が全ての黒幕であったことがわかり、市丸隊長と東仙隊長までもがそれに連なって静霊廷を離反していってしまったからだ。本当に、夢なんじゃないかと疑ってしまう。それでもいつもは活気に溢れている静霊廷の静けさを思うと、これは現実なんだと思い知らされた。


「日番谷隊長。そろそろ病室に戻られないと、お体に障ります」

「…わかってる」

「今日は緊急の隊主会もあります。ですから少しでもお体を休めておいた方が…」

「わかってる!…でも、悪い。聞けねえ。ちょっと2人にしてくれないか」

「……はい」


わたしと日番谷隊長は今、雛森副隊長の病室にいた。藍染隊長たちが離反する直前に、日番谷隊長と雛森副隊長は、藍染隊長に刺されたのだ。隊長格の2人は優先的に治療も受けられたため命に別状はなかったが、傷が癒えても雛森副隊長は目を覚まさない。日番谷隊長はそれをとても心配されて、まだ自分も全快ではないというのに、頻繁に雛森副隊長の病室に足を運んだ。


「失礼します」


病室を出ていくわたしの言葉に、日番谷隊長は言葉をかけてくれるどころか指一本動かしたりはしなかった。きっとそれどころではないのだろう。わたしもそれ以上の言葉は何も言えなかった。静かに病室の戸を閉める。だけど本当は違う。わたしは何も言えなかったわけではなくて、喉の奥の奥の方で言いたかった言葉を飲み込んだのだ。目頭が熱い。

日番谷隊長は知らないだろう。以前からわたしが、日番谷隊長が雛森副隊長のことを話す度に小さな嫉妬をしていたこと。雛森副隊長が牢に入れたとき、雛森副隊長の心配ばかりする日番谷隊長に仕方ないと思いながらわたしが少し泣いたこと。それから、醜いと知りつつ、雛森副隊長が日番谷隊長に気絶させられたとき、雛森副隊長が藍染隊長に刺されたとき、わたしの気持ちが少し晴れたこと。知らなくていい。知らなくていいんだけど、わたしはこの気持ちを一体どこにぶつけたらいいんだろう。日番谷隊長はわかっているのだろうか。わたしは一応、日番谷隊長の彼女だったはずだ。

/誰の記憶に残るというの?


◇ ◇ ◇


ぐだぐだ。練習板じゃないとあげらんない〜笑

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