「何をしてる」
鬼道さんに声をかけられた瞬間、心臓がとまるかと思った。驚きすぎて、口に含んでいたお茶がたくさん流れ込み、むせる。げほっげほっ。慌てるわたしに、鬼道さんは何をしてるんだと言って笑った。
「き、鬼道さん…」
「何だ? そんなお化けを見つけたような顔をするな」
「あ、うんごめん」
「俺の水筒はっと…ん? お前が使ってるそれ、俺のじゃないか?」
「っ……、え…?」
鬼道さんの言葉に身体中の穴から変な液がでてくる。や、ばい。近づいてきて水筒を確認しようとする鬼道さんに思わずわたしは後ずさった。鬼道さんの言う通り、これは鬼道さんの水筒だった。
無造作に置いてあった鬼道さんの水筒を、わたしが借りて飲んでいたのだ。何でかというと、まあつまりそういうことで、鬼道さんと間接キスがしたかったからだ。わたしは鬼道さんが好きなのである。それにしてもこれは気持ち悪い。
終わった。鬼道さんがさらに近づいてきて、水筒を手にした瞬間に思った。わたしの青春よグッバイ。
「やっぱりな。これは俺の水筒だ」
「あ…ほ、んと?おかしいなあ…」
「間違えたのか?」
「うん、うんそう。そうです」
ナイス天然鬼道さん!鬼道さんの勘違いに思わず何度も頷くと、また鬼道さんに笑われた。恥ずかしい。なんにしても、助かった!ほっと息をついたのもつかの間。鬼道さんが突然、何故かわたしをじっと見つめ始めてきた。あ、あれ、バ、バレたの?冷や汗がさらに溢れてきて、すごく焦燥していると、鬼道さんは小さく何かを言って、顔を近づけてくる。
「っんぅ…!?」
そして、鬼道さんの唇が、わたしのそれに重なった。何が起きているのかわからない。はじめは軽いキス。それから続く、深い深いディープキス。…キス?わたし今キスされてるの?頭の回転がついていかない。
それがしばらく続いてから、やっと鬼道さんの唇が離れる。はぁ、はぁ。息が乱れた。鬼道、さん…?首を傾げるわたしに鬼道さんは意地悪そうに口角をあげて、ゆっくりと口を開く。
「嘘をつくな。この変態」
わたしなんかが鬼道さんに嘘をつけるはずがなかったんだ。鬼道さんの言葉にそれを知らしめられる。それにしても、変態って言う鬼道さんもかっこいいな。ぼんやりとする頭の中で、ただ呆然とそう思った。
/スムーズさに欠ける