全体的にウェーブのかかった、栗色の髪も。とても小さくて愛らしい、桃色の唇も。少し釣り上がっている、でも本当は優しい目も。
本当は、絶対、誰よりも愛している自信はあるんだ。
「ん……ふ、」
長いキスを終えて、夏美の唇からゆっくりとわたしのそれを離した。名残惜しそうに伝う銀色の糸が、さっきまで夏美がわたしのものであったことを表しているようで、自然と顔がニヤける。
「夏美、えっろい顔してる」
わたしの言葉に、もともと赤かった夏美の顔は、さらに温度が上がったようだった。「言わないでよ…」そう言って顔を逸らす夏美に、わたしの悪戯心が揺さぶられる。
まだ、わたしと夏美はキスまでの関係だ。でも今日はその先まで行ってしまおうか。可愛い夏美の反応を見ているといつもそう思ってしまう。
「なあ夏美!」
そんなときだった。わたしと夏美だけで、静かだった部室に円堂くんが飛び込んでくる。雰囲気はぶち壊しだ。円堂の空気を読まない行動に、わたしは苛立ったが、深呼吸をして気を落ち着ける。夏美は赤くなった顔を見られたくないのか、顔をぺちんと叩いて、少ししてから円堂に振り返った。
「どうかしたの?」
「おう! 今な…」
楽しそうな口調で夏美に話しかける円堂は、きっと夏美が好きなんだろう。自覚しているかは怪しいところだけど。
そして、そんな円堂に優しく顔を綻ばせる夏美も、多分円堂が好き。わたしと夏美はキスをする関係だけど、それはわたしが強要したからであって、同意の上ではない。
「夏美、円堂。わたし今日は先に帰るから」
幸せそうに話す夏美たちにいたたまれなくなってわたしがそう言えば夏美たちはどうしたのかと驚いたような顔をしていた。そんな顔をしないで欲しいと思う。わたしがいない方が、二人ともいいくせに。
「…また、明日ね。夏美。明日は理事長室に行くから」
二人から視線を逸らして、そう言ってわたしは部室を飛び出した。明日、また会う約束をしたのはまた明日夏美とキスをするため。わかってる。自分が、夏美をどれだけ縛り付けているかなんて、自分が1番わかってるんだ。
「…わたしも、男に生まれたかったな」
例え男に生まれたところで、円堂には敵わない。そんな事実から目を背けながら、呟いた一言にさらに虚しさは募った。
それでも自分の性別を呪わずにはいられなかった。
/欠けてばかりいる