また、だ。


「ん? 弟くん、どったの?」


まただ。パスカルさんの些細な一言で、僕の心の中に真っ黒なモヤモヤが渦巻く。


「…何でも、ありませんよ」

「うっそだー! だって何か、機嫌悪そうだよ?」

「そんなことはありません」

「あるって」

「ないです」


頑なな僕の否定の言葉に、パスカルさんは眉をへの字に曲げてみせた。そして「そんなに聞かないで欲しいなら、もう聞かないけどさ〜」と、いつもの気の抜けた口調で言った。

それでいい。彼女の言う通り、僕には彼女に言いたいことはありましたが、それを本当に彼女に言うわけにはいかなかった。


「あ、そういえばさ、この間久しぶりにアスベルたちにも会ったんだよ〜。ラントに行ってきたんだ」


それなのに彼女の続けた言葉にさらにモヤモヤは悪化した。僕の顔色がさらに曇ったのがわかったのか、あちゃあ、と口に出して落ち込む。そんなパスカルさんに、そういうことは黙って言ってくださいと、僕は返した。パスカルさんは、久しぶりに会っても相変わらずだった。


「じゃあ聞くけどさ、弟くん」

「はい? 何です」

「だから何で機嫌悪いの」

「悪くありませんって。大体もう諦めたんじゃなかったんですか」

「そうなんだけどさ〜」


弟くんすっごい機嫌悪いけど、それ以上に何か悲しそうだから、何か落ち込んでるのかなーって思って。彼女の言葉に、僕の心は少し晴れた。心配、してくれていたのか。彼女の気持ちが嬉しかった。


「あなたが人の心配なんて珍しいですね」


けれども相変わらず口から出たのは、反対の言葉。


「まーたそういうこと言う! ほら! 言うこと言わないと、あたしもうストラタの技術支援には来ないからね!」

「なっ! 卑怯ですよ!」

「弟くんが言えばいいんでしょ〜」

「……」

「おーい。黙ったら余計にわかんないよ弟く「ヒューバートです」…ん?」

「…僕の名前は、ヒューバートです」


弟くんじゃない。僕の言葉にパスカルさんはきょとんとした顔をした。

ああ、もう。これでは僕ばかりがバカみたいじゃないですか。

顔が熱くなるのが自分でもわかって、とっさにパスカルさんから顔を逸らす。こんな顔は、パスカルさんには見られたくなかった。


「…ヒューバート?」


そして彼女の言葉に、僕は思わず手で顔を押さえる。多分顔はさっきより赤くなった。

心臓が、うるさ、い。

/察してもらっちゃ困る

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