男のくせに長髪って何だよ。男のくせに長髪って何だよ。男のくせに長髪って何だよ。


「……、…」


その上あたしより髪の毛サラッサラだし目の色青いし色白だし何のシャンプー使ってるわけ。しかも男のくせに長髪だし似合ってるし。


「…なまえ」


しかも今の声聞いた?綺麗なハスキーボイス。これは女の子たちが黙ってるはずないよね。長髪だし。


「いや長髪は関係ないだろう。というより、何だ。なまえはわたしに何か恨みでもあるのか」

「べーつーにー?」

「あるんだな」

「ないってば」

「嘘をつくな。なかったらそこまでわたしを愚弄するまい」

「愚弄してないし。本当のこと言っただけじゃん。褒めてるんだよ」

「今のが褒め言葉だとしたらお前は相当歪んでいるな」


どうせあたしの性格は歪んでるし、髪の毛は黒いし目の色も濁ってるし、肌はこんがり小麦色だよ。わたしの言い返した言葉にエドガーはキョトンとした顔をした。あーあーあー。鬱陶しい。キョトンとした顔までイケメンってふざけてるよな。これで中学サッカー界のトップクラスプレーヤーって、神様はエドガーに良いものを与えすぎだと思う。有り得ない。

プイ、とわたしはエドガーに背を向ける。そしたらエドガーは、ぷ、と小さく笑った。…は?笑った?今のやりとりの一体どこに笑うとこがあったの?わたしの苛立ちは上るとこまで上り詰める。


「何よ、何が可笑しいわけバカチナス」

「わたしはバカチナスではないバルチナスだ。それからそんなに不安がらなくとも、大丈夫だと思うがな」

「は、わたしがいつ不安とか言ったのよ。今の会話のどこにそんな要素があったの」

「大方珍しくわたしの応援に駆けつけてみたらサポーターの女の子たちが騒がしくて嫉妬して、不安になったのだろう?」

「なっ…!」

「そう照れるな。久しぶりに会ったのに何をぶすくれているのかと思えば、全くなまえというやつは」


くっくっと笑うエドガーにわたしの顔は熱くなる。ムカつくのと恥ずかしいのの半分半分の理由でだ。悔しいけれど、エドガーが指摘したことは本音だ。わたしには自信がなかった。エドガーみたいなイケメンプレイボーイにわたしみたいな、女が釣り合うのかなって、いつも思ってる。

だからわたしはめったにエドガーの応援には来なかった。応援に来ない理由を、エドガーにはサッカーが嫌いだからと、告げていたけれど、本当はそんなの嘘だ。本当はわたしだって、サッカーをしてるエドガーの姿は大好きだ。でもサッカーをしているエドガーを取り囲むサポーターの子たちを見ていると、何だか居たたまれなくて嫌だった。それにサポーターの女の子たちはみんなかわいいから、勝てる気がしなくて…わたしは不安になる。だからサッカーをするエドガーはあまり見に来ようとはしなかった。なのに、今日はサッカーをするエドガーをどうしても見たくなって、それで…不安が噴出してしまった。つくづくわたしは器が小さくて鬱陶しい女だと、思う。女々しすぎる。


「そう塞ぎこむな」

「…バーカ」

「わたしはわたしなんかより、お前の方がよっぽど綺麗だと思うがな」

「っ!そ、んなお世辞いらないんだから…」

「お世辞じゃない」

「お世辞だよ」

「お世辞じゃないと言っているだろう?…なまえ」

「何よ……って、ひゃっ!」


エドガーの言う通りぶすくれて、エドガーに背を向けて床ばかり見ているとふいに浮遊感がした。びっくりして思わずエドガーの顔を見れば見たことないくらい綺麗な笑顔をするエドガーの横顔。わたしは俗に言うお姫様だっこをされていた。な、何でこのタイミングでお姫様だっこなのよ!怒鳴り付けたわたしに、エドガーはまた小さく笑って、それからわたしの耳元で囁いた。


「心配しなくともなまえは充分に綺麗だ。それに、もしもなまえが綺麗じゃなかったとしても、わたしはお前だけのものだから心配する必要はない。わたしだけのお姫様」


ああもう、わたしはエドガーのそういうところが大嫌いなんだ。わたしは真っ赤になった顔を隠すように、再びバカと繰り返しながらエドガーの肩に顔を埋めた。エドガーの、バカ。大好きだよ。

/わたしだけを見ていて?

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