夜がもっともっと深くなればいいのに。東京の空は、夜でも明る過ぎるよ。わたしの言った言葉に、グランはよくわからないというような顔をして首を傾げた。


「暗い夜がいいって、こと?」

「そう」

「…星が、よく見えるから?」

「ううん」

「それじゃあ」


何で?そう言ってわたしの顔をじっと見つめるグランに、わたしは小さく笑った。何でここで笑うのさ。グランの言葉にわたしはごめんごめんと返した。


「なんか、かわいくて」

「え?」

「日本中を震撼させるエイリアのトップが、首を傾げてるのがおかしくて」


それからまたクスクスと笑ったわたしに、グランは少しぽかんとした顔をしてから、笑うなよと困ったような顔をして言った。ほら、その表情がかわいい。わたしはグランのこの表情が好き。


「もうすぐ、円堂くんたちと対戦だね」

「え…ああ、うん」

「勝てそう?」

「…わからない」

「そっか」

「……驚かないのかい?」

「何が?」

「俺に自信がないこと」

「うーん、何か、なんとなく気付いてたような。驚いたような」


わたしの曖昧な言葉に今度はグランが笑った。何それ、だって。…そうだね。わたしちょっとおかしいのかもしれない。そう思いながら言葉は返さなかった。その代わりにふわりとグランの腕に抱き着く。するとグランは少したじろいだ。そしてわたしの手を押しのけるかと思ったけれど、結局何も言わないでこの状況を振りほどいたりはしなかった。


「わたしグランのことなら何でも知ってるよ」

「…うん」

「ヒロトのときのグランも全部知ってる」

「…そうだね」

「ヒロトは変わらないね」

「え?」

「ヒロトは昔から変わらない」


脈絡のないわたしの言葉にグランは戸惑いながらも何かしら相槌を打ってくれた。本当に、ヒロトは変わらない。グランになっても、地球の侵略者になってもヒロトは変わらない。そんなわたしの言葉に、グランは小さく首を振った。


「俺は、変わったよ。父さんのためにしか生きなくなった」

「…ううん、変わらない。全然変わってない」

「変わったよ」

「変わらない…ヒロトの温度は昔から、変わらない。わたしが抱き着いても振りほどいたりしないところも、変わらない。ヒロトは本当に優しいね」


わたしの言葉にヒロトは一度口をつぐんで、一呼吸置いてから否定をした。俺は優しくなんかないよ、だって。そんな悲しそうな目をして言われても、説得力なんか全然ないのに。


「ヒロトは…優しいの」


その手で世界を壊しておきながら、そのことにヒロトは苦しんでいる。ヒロトは本当はすごく優しい人だから、本当は、本当は、円堂くんたちとサッカーをして世界を守る方がやりたいんだ。だけどヒロトは優しいから。苦しんでいる父さんを捨てたりなんかできない。そして自ら傷ついていく。

わたしはそんなヒロトの姿を見ているのがすごく苦しい。どうして世界はこんなにも、ヒロトに残酷に回っていくのだろう。


「夜が…もっと深かったら、良かったのに」


そしたらそのまま消えてしまえるような気がした。このまま、このまま、全ての終焉を見届けるのはとても残酷なことだから。ねえヒロト、一緒に夜の帳になってしまおうよ。わたしの言葉に、ヒロトはただありがとうとだけ言った。ほらね、ヒロトは優しい。ヒロトは優しいから、わたしみたいに全てを投げ出したりは、できないんだ。

/ほしがひかる

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