わたしはシルバーが怖い。シルバーとは、わたしがジョウトを旅していたときに知り合った少年で、あの有名なロケット団のボス、サカキの息子だ。

わたしは別に、シルバーがサカキの息子だから怖いわけではない。むしろわたしはサカキの息子であるシルバーに親しみを感じて近付いたのだ。

ポケモンを、人を愛することを知らない不孝な少年。

わたしはシルバーのその不孝さに惹かれていた。なぜならわたしも、シルバーと同じように不孝な人間だからだ。わたしの父もまた、サカキと同じように犯罪者だった。わたしはただ単純に彼に同じ境遇であることに惹かれたのだ。ただ犯罪者の子であるからという理由だけで蔑まれて生きてきた境遇を、仕方ないこととして受け止めながらも抗う、矛盾した彼がひどく滑稽で、わたしは好きだった。

わたしより不孝で強くて脆い彼が、わたしはとても大好きだったのだ。なのに。


「俺は間違っていたんだ」


彼はこの頃よくそんなことを言うようになった。


「いまのままじゃ俺はこれ以上強くなれない」

「シルバー…?どうしたの、最近、そんなことばっかり」

「これじゃサカキと同じだ。それじゃ何も変わらないんだ」


ある日シルバーは気付いた。ジョウトで出会ったとある少年に何かを吹き込まれたらしい。シルバーは気付いてしまった。シルバーがサカキと同じであったことに。ポケモンを道具と思い、人を愛することを知らない、サカキとシルバーの思想は、確かによく似ていた。それがまた滑稽だったのだ。あれだけサカキを否定しながら、同じ道を歩もうとするその姿が。わたしはその矛盾に気付きながらも、それをシルバーに教えたりはしなかった。なぜならシルバーに、気付いてなんか欲しくなかったから。間違い続けて欲しかったから。それなのにその事実を、誰かが思い知らせた。


「ポケモンを思いやる心が、もしかしたら、要るのかもしれない」


シルバーの言葉に心が凍る。そんな言葉は聞きたくない。聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない。だけどシルバーの言葉にわたしは笑った。シルバーが変わるのは嫌。だけどシルバーに嫌われるのはもっと嫌だった。だってシルバーはわたしがやっと見つけた、わたしのことをわかってくれる人、わたしがわかってあげられる人だった。わたしにはシルバーしかいないのだ。シルバーに拒絶されたらわたしはまた独りになってしまう。


「…そっか。そうだね、もしかしたら、思いやる心が必要なのかもしれない」


だけどそれって何?思いやる心って何?わたしにはわからないよ。シルバーにはわかるの?わからないでしょ?口から出かかるそんな言葉をなんとかわたしは飲み込んでまた微笑む。するとシルバーはそんなわたしの目をじっと見つめて、それからふわりとわたしに笑い返した。そこには思いやる心があったのだろうか。わたしはそれを知らないから、わからなかった。ただ少しだけ、泣きたかった。わたしはシルバーじゃなくて独りが怖かった。

/独りはこわい

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