顔を上げて、龍之介と視線を交わらせる。

「ん?」

琥珀色の瞳で甘いマスクの持ち主が優しく微笑む姿なんて、慣れてる私ですら胸の奥がざわりとするのに、他の人だったら卒倒するかそのまま恋に落とされるんじゃないか。
これ以上こいつに恋する女が増えるなんて、嬉しくないし寧ろ嫉妬しかない。
龍之介が抱かれたい男No.2だとか言われてるし本人はどう思ってるか知らないけど、そんな称号私からしたらなくなってしまえばいい。

まだストレスが完全に消え去っていないのか、自分があまりにも独占欲の強い面倒な女に思えてきて嫌になる。
龍之介も私もアイドルだから、ファンに一時の夢を見せるのが仕事だと言うのは理解してる。こいつは大人だから、きっと私と違って余裕だろうな。
私ばかり好きみたいな感じで、何だか悔しくなってくる。それを紛らわすかのように私から抱き着くと、何故か龍之介がびくりと震えた。

「……。」

思わずジト目になってしまうけど、きっとこれは私何も悪くない。

「あ、や、嫌じゃないんだ!その……名前が自分からこうしてくれるなんて滅多にないから、ちょっとびっくりしたのと嬉しくてさ。」
「え?」

私が素っ頓狂な声を上げると、片方の手で自分の頬を掻きながら苦笑いを浮かべた。

「いつも俺から抱き締めたりキスしてただろ?名前からはなかなかしてくれなかったから、俺ばっかり好きなのかなって思ってたんだ。」

そう言ってはは、と笑いながら私の髪を撫でる。
まさか、同じ事考えてたなんて正直予想外過ぎて私の身体は動かない。

「……あんたと同じ事、考えてた。」
「え?」

唯一動くのは口だけ。だけど私の意志に従わないで勝手に動き始めて止まらない。

「……私も、私ばっかりあんたの……龍之介のこと、好きなんじゃないかって、思ってた。……でも、同じ事思ってたなんて、その……嬉しい。」

ようやく勝手に動いていた口が止まる。顔が熱い感覚がするから、きっと今私の顔は真っ赤だろう。

2人とも黙り込んでしまい、きっと数秒しか経ってないが、体感では何分にも感じられた静寂の後にようやく龍之介が口を開く。

「……っ、俺今すげー嬉しい……!」
「ひゃっ、」

少し顔を赤くした龍之介が私を抱きすくめる。
丁度私の耳もとに口があるようで、心地良い低音が鼓膜を直接刺激される。

「俺たち、同じ事思ってたんだな。」
「……そうだね。」
「何ていうか言葉が出てこないけど、本当に嬉しいよ。……あー、やっぱり俺名前の事好き過ぎだ。何回言っても足りない。」
「……私も、足りない。何回言っても"好き"じゃ足りない。」
「……俺も。ねえ名前……あー、かなさんちゃー まじゅん。」

そう言うと更に力が込められる。沖縄弁だろうか。言っている言葉の意味がわからない。

「かな……何?」
「後で調べてみて。」

恥ずかしいから、といってそっぽを向かれる。
190cmオーバーの大男なのに、ちょっと子供っぽい仕草で小さくだけど笑ってしまった。
龍之介は私が笑ったことに拗ねたのか私を抱いて、そのままソファーに2人して埋もれる。私の体がすっぽりとおさまってしまい、今度は私だけじゃなくて2人で笑いあった。

温かかったカフェオレは随分とぬるくなってしまったけど、甘ったるい雰囲気に包まれたまま飲む大好きなカフェオレは、いつもよりも少し美味しかった気がする。

(で、なんて意味だったの?)
(本当に恥ずかしいから名前1人で調べて……!)


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