『__今週のシングルチャート1位は!LIBERALの新曲__』

「……。」

目の前にある画面から流れてくるシングルトップのお知らせ。
ここ数年ですっかり聞き慣れてしまった定番のお言葉に、少し嬉しいけどそれ以上の感情を抱く筈なくて、自分が他のアイドルとは違う感情を"トップ"に向けているのだとぼんやり思う。

芸能界なんて、ましてやアイドルなんて見た目は華やかだけど、内部事情は醜いことこの上ない。毎年毎年掃いて捨てるほどのアイドルグループが結成されるけど、そこからデビューまでいくのはほんのひと握り。
例えデビューしても、必ずしも人気が出るわけではない。実力が無ければ問答無用で淘汰される。
この世界なんてそんなもんだ。

「はぁ……。」

ふかふかと座り心地のいいソファに背中を預けながら、思わず溜息を吐いた。
気分が何となく鬱々としたが、横に置いてある家主のクッションを抱くと少し霧散する。
ここ最近はドラマやMVの撮影にツアー準備で休む暇がなく、負の感情というかストレスが奥底に蓄積していたみたいだ。先程の暗い気分と共に、それらも一緒に消えてなくなっていく感覚がする。

「あ、名前の新曲。」
「龍之介。」

2つのマグカップを持って、私がいるリビングに家主が戻ってきた。
龍之介がはい、とゆらゆらと湯気が立つマグを1つ私に渡し、その流れのまま隣に腰を下ろす。ソファが2人分の重みによって沈み、私にどこか安堵感を抱かせた。

渡されたマグを覗き込むと、そこに入っているのは甘い甘いカフェオレ。以前少しの苦味が苦手で飲めないと言うと、これを作ってくれたのだ。砂糖とミルクがたっぷり入ったこのカフェオレを初めて飲んだ時の衝撃は、今でも忘れられない。
公表なんてしないけど、その時からずっと、1番好きな飲み物はこの龍之介特製カフェオレだ。
息を吹きかけ少し冷ましてから、口に含む。
口内にじわりと広がる甘ったるい味を味わいながら、浮かんでくる涙を見せないようにせき止めた。

「……ん、おいし。」
「はは、良かった。……名前、今は俺と2人なんだから、泣いていいんだよ?」
「、は?別に泣かないし。」

唐突な言葉に返事をするも、思わず声が震えた。
まるで心を見透かしたような言葉のせいで、弱い私を隠す鎧が剥がれていきそうだ。

「嘘。すごい泣きそうな顔してる。」
「してない!」
「してる。」

ほら今も、と言って龍之介は私の頬にその大きな手のひらをあてる。
龍之介に触れられている場所から伝わる彼の体温が、まるでカフェオレと同じようにじわじわと私の視界を奪う。私はまた必死でせき止めようとするけど、何の意味も成さないまま、ぽたりと決壊した。

「……ぅえっ……ふ、う……っ……!」

嗚咽と共に零れる涙。泣き顔なんて可愛くないから人に見せたくないのに、私の自律神経は言うことを聞いてくれない。止めようとするけど、全然止まってくれない。
両手で抱えていたマグカップが消えたと思うと、目の前が黒と白の2色で統一される。何も理解出来ないままにあったかい何かで包まれた。

「名前はさ、何でも自分で溜め込み過ぎちゃうんだよ。自分でやろうとするのは全然悪い事じゃないけど、名前はまだ子どもなんだから、もっと頼ってくれていいんだよ?」

赤ちゃんをあやすように、背中を一定のリズムで叩いてくる。本能の部分でそれに安心感を抱いた私の涙は、ほんの少しずつだけど引いていった。

「っ、でも、私はアイドルなんだから、自分でやらなきゃだっての……っ!」
「うんうん、名前はアイドルだ。でも、だからって無理していい理由にはならないよ?俺は名前が我慢して我慢して、それで最後におもちゃみたいに壊れるなんて見たくないんだ。」

背中を優しく叩いていた大きな手のひらが止まり、抱きしめられる。あれだけ止めらなかった涙はもう止まっていて、与えられる体温をただただ享受した。

「、りゅーの、すけ、」
「なんだい?」
「、ありが、と……。」
「どうしたしまして、名前。」

きっと私は未来永劫こいつを嫌いになんてなれない。
ずっと、龍之介を好きな私でいるんだろう。

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