突然だが、俺は赤色の母親と紫色の父親の間に産まれた。俺に目の冴える様な赤い髪を授けてくれた母さんに、紫色の瞳を授けてくれた父さん。だけど後者は大変気に食わない。学校という檻で疲弊しきった心身の癒しを母さんに求めようとして、かなりの高確率で横から邪魔してくるからな。俺と母さんが2人でいる事が向こうにとって気に食わないらしい。いい歳して恥ずかしくないのだろうかあの愚父。
で、この話をどうして今始めたのかと言われると、父親曰く「今日が2人出逢った日」だからだ。カレンダーを購入する度に小さく目印を付けていた父親を見てまだ幼かった俺はそれを疑問に思ったらしく、近くにいた母さんに理由を聞いたのだ。母さんは俺に教えた事をすっかりと忘れているけれど、俺は十数年経った今でも鮮明に覚えている。
まぁ、長ったらしい前置きはさておき。この間、珍しく酒に酔った父さんが嫌がる俺に無理矢理語った2人の馴れ初めを語ろうか。

__しとしと降り続く弱い雨の日。それが2人の運命を決定づけた。

灰色のスーツと黒のハイヒールに身を包んだ「中央」を名乗る赤い女性と、上着の代わりに羽織る黒色のカーディガンと黒のスラックスを見に纏う「担当」と名乗る紫色の男性。
何事も無くただ与えられる平和を享受するだけの日常ならば、決して関わる事のなかった2人が、1つの事件を通して運命的な邂逅を果たした。

「再三人間が来ていると思うから察しはついていると思う。だが前まで来ていたのは地方の人間で、今回出向いた私は中央に所属している。……この意味が分かるか?」

頭1個分程上にある男の眼を鋭く見据えながら、女が問い掛ける。その女の正体は警察。そしてその中でも選ばれた者しか配属される事のない中央に、これまた異例の若さで所属する事となったエースだ。
対して問を投げられた男は、数多くの不穏な噂が囁かれている会社「Fazbear Entertainment」に所属し、系列店である「Freddy Fazbear's Pizza」の統括をこちらも異例の若さで行う実力者だ。

「あぁ、容易に察しは付くな。大方すんなりと行き過ぎた事案の解決に疑念を抱いた中央の上層部が、同じく中央に所属する人間……この場合は君の配属されている部署に指令を下したんだろう」
「ご名答。君は察しがいいな」
「はは、中央の美女に賞賛されるとは光栄だ。これがもっと普遍的で日常的な出逢い方だったなら、この後一緒に夕飯でもと誘いをかけていただろうな」
「はは、その若さで様々な部署を統括する男に口説かれるとは誤算だったな。しかし悪いが私は豪勢な食事も質素な食事も嫌いでね。例え誘いを受けていたとしても断っていただろうよ」
「それは残念だ」

相手の腹の中を暴こうとする様に視線を鋭くさせながら、両者は仕事柄回る舌を最大限に活用する。しかし男の方は女と違い、鋭い紫色の奥深くにどろりとしたものを宿らせている。女は気付いていないのか、はたまた気付かぬふりをしているのか表情を変えることはない。

「今後、主に私が出向く事になるだろう。鬱陶しく思うのは分かるが、国家の上層からのお達しだと考えて我慢してくれ。私もこういった捜査は気が乗らんがな」
「気が乗らないのに捜査とはご苦労なことだ。ま、社員達には俺から話は通しておく」
「なるべく早く終わらせるよう尽力はしておこう」
「そうしてくれると此方としても大変嬉しいな」

乾いた笑みを貼り付けながら、両者は嫌味と皮肉を混ぜ合わせた軽口を叩き合う。

「じゃあ私はこれで失礼する」

本部に戻ろうと、女は踵を返す。しかしそれを引き止めるかのように背後から声がかかった。

「戻る前に、君の名を教えてはくれないか?」

片方の口角を持ち上げながら、男は問う。

「……人に名を聞く前に、自分から名乗るのが礼儀だとは教わらなかったのか?君、見たところ私よりも歳上だろう」

首だけ振り向きながら、女は言葉を返す。相手を挑発するかのようなその笑みに、男の背筋に何かが走り抜けた。

「そう言われては仕方ない。……ルキウス。ルキウス·ロペスだ。君は顔が幼くて年齢が分かりにくいな。」
「名前·名字。その言葉、生まれてから二十数年言われ続けてきた。ではまたな。紫の」
「ああまたな。警察の」

そう言って両者は今度こそ別れた。
運命の歯車は、確かにここから動き始めたのだ__

__さて、2人の馴れ初めはこんな感じだ。最初は父親が一方的に好意を抱いていたらしい。
母さんは息子の贔屓目を差し引いても魅力的過ぎるからどこに堕ちたのかは知らないが、まあいいだろう。
とりあえず今キッチンで夕飯を作っている元偏食家の母さんを、手伝うとでもしようか。

(母さん、俺これ苦手)
(好き嫌いはいつか治るものだ。食べなさい)
(はーい)
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