「教科書よーし、体操服よーし、お菓子よーし!」

通学用のリュックに必要な物を詰めて、確認する。あんまり時間をかけると、電車に乗り遅れて遅刻という大惨事になりかねないので、手早く済ます事が大切。……だけど、今日はいつもより念入りにチェックなきゃならない。

そう、今日の日付は11月11日。かの有名なポッキーの日なのだ!

女子高生たるもの、こういったイベントには全力で乗っからないとならない気がする。あの人が知ってるかどうかはわからないけど、そんなこと気にしてもあの人の事だし、何とかなるだろうな。

ふんふんと鼻歌を歌いながらリュックを背負う。なんだかいつもの電車に乗ったら、とある先輩に会いそうな予感がしてならないけどまぁいっか。

夢ノ咲までは電車で大体15分。いつものように電車内で渉先輩と遭遇してから、一緒に学校へと向かう。正直渉先輩が電車通学だと思ってなくて、初めて電車内で会った時はとても驚いたことを覚えてる。変態仮面でamazingな先輩だから、電車とか使わなさそうって思ってたのである。
2人で雑談しながら歩いていると、秋晴れなのにちょっと寒くて、中にカーディガンを着ているのにぶるりと身震いした。
カーディガンでふとある事を思い出して、リュックに手を突っ込んで漁り、お目当ての物を取り出す。ばり、という音と共に封を開けると、チョコレート特有の甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「渉先輩、これどうぞですっ!」
「おや、これは……ポッキーですね!そういえば今日はポッキーの日、ありがたく頂きましょう☆」

そう言うと先輩は袋から1本取り出し、口にくわえる。にこにこ笑顔でサクサクと咀嚼していく姿はやはり美人さんで、どこか敗北感を感じる。いや私でもそこそこ胸はあるから大丈夫まだ勝ってる。……男の人に何張り合ってるんだろ私……。

「あぁそうだ!ポッキーの日で思い出しましたが、名前さん、彼とポッキーゲームはするのですか?」
「……えっ!?」

先程と同じにこにこ笑顔……いや、その笑顔の中に少し意地悪い何かを含ませながら問いかけてくる。にこにこ笑顔と思ったけど、全然にっこりじゃない。にんまりとした笑顔だ。

「なな、何言ってんですか先輩!?」
「おやおや、やらないのですか?こんなにいい天気!そしてポッキーの日!という最高の条件が揃っているのに?」
「いや、天気確かに良いですけど!ポッキーゲームにそれ関係ないですよね!?」

ちょうど私の頭あたりにある先輩の肩をベシベシと叩く。まさかこんな朝から、しかもこんな往来でポッキーゲームが話題に上がるなんて予想していなかった。そもそも誰が予想なんてする?いやしない。

「残念ですねぇ……。私でこんなに残念なのですから、きっと彼も残念に思っていることでしょう……。」
「う"っ……。」

端正な顔に憂いを浮かべながら、先輩は溜息をつく。でも騙されてはいけない。渉先輩の演技力は学園でもトップレベルなんだ。何人被害者が出ていることか……!!
それにしても、ポッキーゲーム、かぁ……。

「……私からやるの、恥ずかしいですもん……。」

俯きながら、ぼそりと呟く。
いつも余裕綽々なあの人の事だ、言っても軽く流されて終わるだろう。それはさすがの私も堪える。

「彼、きっとあなたから言ってくれるの心待ちにしてると思いますよ……☆なにせここ数日、表面には出てませんでしたが、如何にも楽しみだという表情をしてましたからね☆」

そう言いながら、私の頭を優しく撫でる。大きくて不器用だけど、ものすごく優しいその手は、私の不安を根っこから取り除いていくようだった。

「渉先輩……。私、やってみます……!」
「ふふふ!その意気ですよ名前さん」
「頑張りまーす!」

優しい先輩のお陰で、私のやる気スイッチがぽちんと押された。
今日あの人に会えるのは、きっと放課後。はやく放課後にならないかなぁ。

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「……遂にやってきた……放課後が……!」

授業が全て終わり、最後の難関である放課後に突入した。凜月くんとか双子ちゃん筆頭に、色んな人達にちょっと?取られたけど、ポッキーの貯蔵は万全。1箱まるまる残ってる。2箱持ってきてよかった。

「よっ、と。」

リュックの装備は完了した。置き勉のお陰で今日も軽い。さて、きっとあの人はいつもと同じように棺桶の中で寝てるはず。
あとは部室に向かうだけ……!

「アラ、名前ちゃん今日は部活?頑張ってねー!」
「ありがと嵐ちゃん!部活行ってきまーす!」

いざゆかん、部室!

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「……。」

部室に到着したのだけど、緊張が凄いことになっている。普段は何気なく開けている金属製の扉が、今だけは強固な門扉に感じられてならない。

確か今日は双子ちゃん達来ないはず。晃牙くんもきっと来ないだろうし、何も問題はない。……ないのだけれど、私の心臓が大変である。

……ここでぐだぐだしていても、何も始まらない。朝渉先輩に応援してもらったんだから、ここでやらなきゃ女がすたるってものだ!

ドアノブに手をかけ、平常を装って開ける。

「こんにちはーー。」

挨拶をしながら辺りを見回す。微かとはいえ確かに人の気配はするけど、肝心の人影はない。これは明らかに置いてある棺桶の中だろう。
リュックからポッキーを取り出して装備する。

「せんぱーい、零せんぱーい!起きてくださーい!」

お菓子片手に棺桶をノックする女子高生の図。なんて奇妙なんだろう。
呼びかけていると、珍しく棺桶の扉が一気に開く。

「あ、先輩おはよーございますうわああっ!?」
「くく、捕まえた。」

中からにゅっと伸びてきた白い腕が私を捕らえて、棺桶の中に少し強引に招き入れる。
急に引っ張られてかなり驚いたけど、私の手はしっかりとポッキーの箱を握ったままだった。

「び、びっくりしましたよ先輩……。」
「すまんのぉ、嬢ちゃん。あれじゃよ、我輩のちょっとしたお茶目というやつじゃ。」

そういって喉を鳴らす。棺桶の中ということもあって少し暗いのに、先輩の赤い目は煌々と輝いてて思わず息を呑んだ。

「おや、名前。その手に持っているのは何じゃ?」
「あ、これですか?ポッキーです!」

そう言って先輩の顔の前にポッキーを出す。

「おお、ポッキーか……。そうだ、今日はポッキーの日じゃったのう。名前、我輩とポッキーゲームでもせんか?」
「ぅえ!?」

先輩がポッキーを私の手から取ったと同時に落とされた爆弾。思わず声が裏返ったけれど、気にしてなんていられない。
下心丸出しみたいだけど、今日は元々ポッキーゲームが目的だったのだ。自分から誘う手間が省けたと思えば少しは気が楽に……いや、ならない。寧ろ部室に入る前よりも緊張してる。

「……ダメかのう?名前や。」

そう言いながら先輩は私の目を覗き込んでくる。言葉とは裏腹に先輩の赤い目には獲物を狩る獣の様な鋭さがあって、背筋を何かが走り抜けた。

「だ、だめじゃ、ないです……。」
「そうかそうか!ならば良かった。」

目を見ていられなくなって、目線を顔ごと伏せる。声音から判断するに、先輩はきっとしたり顔をしているのだろう。
辺りにばり、という音が響く。

「ん、ほれ。」

いつの間にくわえたのか、先輩の口には1本のポッキー。そして私の方にチョコがコーティングされている部分が向いていて、無言でくわえろとアピールをしてくる。

「……はい。」

私に向けられた方を口に含む。恥ずかしさで先輩を見ていられなくて、思わず目を閉じた。

ポッキーゲームは両端から齧っていくのがルール。だけどぐるぐる回る私の頭でそんなこと出来るはずもなく、ただただ先輩が齧っていく音が辺りに木霊する。

だけど、途端にその音が止まる。
どうしてかな、と思って薄く目を開けると、三日月型をした先輩の目と交わる。
そして次の瞬間、唇にあたたかい感触。直ぐにそれは離れたけれど、代わりに私の顔に熱が集まる。

「奪っちゃった、というやつじゃな……☆」
「せ、せんぱい……。」

妖しい笑みを浮かべる先輩に、ただ慌てるだけしか出来ない私。たかが2歳差されど2歳差。人生の経験値の違いに、別の意味でもくらくらとした。

私はただの女子高生。ちょっと作詞と作曲が得意なだけの女の子。

……そんな私でも、大好きな先輩に追いつきたいと思っても、いいですか?

(名前、もう1回やらんか?)
(ま、またですか!?……いい、ですよ……。)
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