青空を引き裂く轟音と共に放たれた砲弾が、M4A1シャーマンの51mm前面装甲を抉りとる音が周囲に響き渡る。
『フラッグ車走行不能!フラッグ車撃破によりBチームの勝利です!』
無線を通し、上空の観測手による試合終了の声が鼓膜へ届く。
「っあー!またナオミ先輩に負けたぁー!ごめんなさい隊長ー!」
「名前!No problem!今のは惜しかったわねー」
「いーや全然です!もっとはやく照準合わせられてれば……!」
思わず自分のサイドテールをぐしゃりと引き掴んで頭を抱える。
車長であるケイ隊長からフォローを入れられるが、今回の敗因は確実に私だ。こちらに狙いを定めていたファイアフライを、私が先に撃破出来ていれば勝てていたのだから。
「あなたの努力を私は知ってるわ。期待してるわよ!」
「は、はい!わーん次は勝つんだから……ってうわ!?ナオミ先輩!?」
砲手用のハッチから出て草地に降りると、つい先程こちらを撃破したファイアフライの砲手であるナオミ先輩が眼前に立っていた。
「お疲れ、名前」
「び、びっくりした……。お疲れ様です、ナオミ先輩」
どっどっどっ、と心拍数が急上昇するのを感じる。165cmの高さから下界を見下ろすブラウンは、145cmの私にとっては蛙をじろりと睨む蛇のそれと同じだ。しかし口数の少ない先輩から発されたのは、威圧を伴った言葉ではなかった。
「行進間射撃の命中率が上がったんじゃないか?4両も撃破された。頑張ったね」
「本当ですか!?やった……あ、いや、まだまだです!はい!」
あのナオミ先輩に褒められて、宙を踏むような感覚に襲われる。思わず声が上擦ってしまうが、私の実力なんてナオミ先輩に比べれば月とすっぽんみたいなものだ。褒められることと認められることは違うと、舞い上がった自分に言い聞かせる。手のひらに爪が喰い込んだ。
「……まだまだなんかじゃないよ」
「っ、」
ナオミ先輩に手を取られる。
「手のひら、肉刺が出来てる」
「…だって私」
弱いですから、と続けようとしたが、先輩に手を握られて詰まってしまう。
「努力ってさ、皆が出来るものじゃないと思うよ。でも、それを口に出さないで出来る名前はすごく強い」
普段は口数が少ないのに、珍しく饒舌に話す先輩の声で鼻の奥がつんとする。
「誰に何か言われたのかもしれないけど、私はレオのこと認めてるから」
手を握るのと反対の手で、ぐしゃぐしゃになった髪を整えられる。その手はひどく優しくて、目から勝手に水が零れてきてしまう。
「うえぇ……」
「名前!?」
びすびす泣き始めた私に狼狽えるナオミ先輩。思わず目の前の身体に抱きつくと、硬直を挟んで私の背中に腕が回るのを感じる。
「次は負けませんもんー!ナオミ先輩だいすきですー!」
「まだ負けるつもりはないぞ」
ぎゅうと抱きつけば同じ強さで返ってきて、安心感か幸福感かわからない感情がごちゃ混ぜになってこころがぐるぐるしてしまう。感情がオーバーヒートしてしまった私をあやすナオミ先輩の表情は見えないが、先輩を独り占めしているこの瞬間は、誰にも邪魔されたくないだなんて思ってしまった。

「……あの二人って付き合ってるの?」
「さぁ?ナオミが名前に惚れてんのは知ってますけど。顔ゆるっゆるじゃないアイツ……」
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