(ぐだ男視点)

「サーヴァント、ランサー、名は名前。召喚に応じ、現界した。姉はいないだろうな?。」

特異点F、冬木から戻り、手元にあったなけなしの聖晶石を使ってサーヴァントを召喚すると、青みがかった白銀の髪をふわりと靡かせる、ランサーの名前が召喚に応じてくれた。召喚の光からしてレアと呼ばれる鯖だろう、ヘラクレスに続いて2人目だ。

彼女を見た感じは幼く、俺と同じくらいかもしくは俺より下に思える。しかし見た目とは裏腹に、女性の母性の象徴……まぁ所謂、胸なんだけど……は大きく、黒のタイツと赤い薄手の鎧?に包まれているけど、それが逆に幼い見た目とのアンバランスさを際立たせている。うちのカルデアにあまり女性サーヴァントは居ないから慣れていなくて、その危うい色香に正直に言って少しくらりとしてしまう。例えるならば、マタ・ハリは年相応ではない身体付きだけど、何というか「母」に向けての情を抱かせるのだが、こちらのオイフェの場合は「少女」に向けての情欲を抱きかねない感じだ。

だけど、彼女もきっとアンデルセンの様に、中身は成熟して、この世の美醜をその身で味わった人なのだろう。瞳を見れば俺でも少しはわかる。子供は悪を知らず、闇を恐れず、何も知らずに無垢で輝く瞳を持つものだけど、彼女は違う。この世の美しさ、汚さ、闇、全てひっくるめた上で受容した、気高き瞳の持ち主だ。そう思いながら俺を見上げる血色の瞳を覗くと、その瞳の奥に吸い込まれるのではないかとほんの少し身震いした。

一つ疑問が頭に浮かんだ。「姉」とは一体誰のことだろう?知的好奇心が他人と比べ強いと主にダヴィンチちゃんから言われる俺だ。気にならない筈がない。思い切って聞いてみると、答えはすんなり返ってきた。

「姉か?……影の国の女王……スカサハ、だ。あれにはあまり会いたくない……。」

苦虫を噛み潰したような表情で彼女は言う。神話なんかの歴史系にはとんと疎い俺だ。以前誰かがそんな名前を口にしていたとは思ったけれど、それ以上の情報はこの脳内には入っていない。

「スカサハ、かぁ……聞いたことはあるけど、このカルデアにはいないかな。」

思案顔でそう返すと、彼女の顔は花が綻ぶ様に明るくなった。

「そうか!ならば良い!まぁ他にもあまり会いたくない奴らはいるのだけど、あれがいないのならば良しとするかな。」
「他にも会いたくない人達がいるの?」
「ああ!」

その筆頭はクーフーリンさ。と彼女は続ける。その名前には聞き覚えどころか、その名前の持ち主達には見覚えしかない。言っていいのかわからないけれど、後からきっと関わるのだから、先に言っても損はないだろう。

「クーフーリンならいるよ。」
「えっ、」
「3人。」
「は!?」

そう言うと嘘だ……、と呟き両手で顔を隠して蹲ってしまった。見下ろすと丁度真下に谷間があったので反射的に目を逸らした。俺何も悪くない。

「3人ってどういう事……?マスター。」

蹲ったまま、名前が問いかけてくる。それを見て少々イケない感情を抱いたのですぐさま思考の外へと捨てた。

「ランサーが2人とキャスターなんだ。ちなみにランサーの片方は若いみたいだね。」
「訳わかんない……。」

そのまま暫く蹲っていた彼女だけれど、数秒経ったところで立ち直ったらしく身体を起こした。

「……いや、この様な姿、王として、戦士として良くないな……マスター、此処はカルデアといったか?案内を頼みたいのだが。」

そう言って再度気高き瞳を彼女はこちらに向ける。

「勿論いいよ。着いてきてくれる?」
「ああ、頼む。」

何気なく手を差し出すと、躊躇う素振りもなく握り返してきて心臓が飛び跳ねた。そして手を繋いだまま俺が先導して歩く事になった。生きててよかった。

「えーっと、とりあえずよろしくね?名前……でいい?かな?」
「構わない。王ではあるが、サーヴァントだからな!気軽に呼んでくれ、マスター。」
「王様なんだ?」
「うむ!」

太陽の様に輝く笑顔で返事をされた。今迄の大半が男だったせいか、マスターになる前よりも女性に免疫がない気がする。静謐のハサンや清姫は居るけど、何というか……あの2人は別枠だ。ブーディカに至ってはお母さんみたいだし……。

真っ当な思春期の男子にはこの手の眩しい少女の笑顔は毒だ。俺をどろどろに溶かしてしまうような、そんな毒だ。恋情に身を委ねる気はさらさら無いけど、これは何か間違いが起こりそうで怖い。いや起こさないけどね俺は。起こすなら……うん、心当たりが有りすぎる。どこぞの槍兵とか。

まぁ何であれ、新しく仲間になったサーヴァントだ。何かしら起こりそうな予感しかしないけど、きっと大丈夫だろう。とにかく今は、カルデアの中を案内するのが先だ。

これからよろしく、小さな王様。
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