「あー……やらかした。」

いつも通り脳内麻薬大放出しながら任務に行ってきたんだが……アタシとしたことが、酷い有様になって帰ってくることになった。
四肢の欠損はしていないが、上半身だけ見るとホラーになっているだろう。頭をやられたらしく目の前なんて真っ赤だ。
まだアドレナリンが出ているようで痛みは殆ど感じないが、早いとこ処置しないと後々面倒な事になる。

「面倒くせ……これだから怪我したまま帰ってくるの嫌いなんだよなァ……。」

溜息を吐きながら、医務室を目指して館の中を歩く。本来なら病院に行った方が良いのかもしれないが、あそこの医者は何となく好きではない。看護師はまぁ好きなのだけど。

「放っときゃ一応治るんだよなぁ。」

だけど放置で自然治癒している姿を見せるのは憚られる。以前放置してたら災藤さんにしこたま怒られた記憶があるからな。
少し憂鬱な気分になっていると、どこからか喧しい足音が聞こえる。まぁおそらくはアイツなのだろうが……今の姿で大丈夫だろうか。
結構時間が経ったから、傷自体は塞がってきているようだけど。

「神忌ー!!ってなんかすげー血なまぐさい!」
「失礼だろお前よ。」

姿を見せると同時に罵られる。何だこいつ腹立つな。
怒りを通り越して呆れてしまった。

「神忌怪我してんじゃねーか!手当てする!?」
「必要ねーよ。放っとけば治るだろ。」

これだからこいつに見つかるのだけは嫌だったんだ……。医務室に行こうと思っていたが自室に変更だ。部屋に戻れば、多少の治療道具くらいある。誰かにされなくても何とかなるだろ。
面倒な事になる前にその場を立ち去ろうと思い踵を返すが、腕を掴まれる。

「っ……何だ?」
「やっぱまだ痛むんじゃん!手当てするから医務室行こーぜ!」
「断る。」
「何でだよ!」
「面倒だ。」

それにお前に手当てしてもらうとか爆発しそうだ、と胸中で呟きつつ、アタシよりほんの少し上にある黄色の目を見据える。
その黄色にはいつものおちゃらけた雰囲気とは一変して、真剣な光が灯っている。思いがけないその光に驚いて、反射的に身を引いた。

「……神忌さ、やっぱオレの事嫌いなの?」
「は?何でそうなるんだよ。」
「だって仮にも恋人だったらさ!普通こんな風に断固として拒否しなくね!?オレは!神忌が怪我して帰ってくるのイヤなんだよ!」
「!?」

珍しく怒鳴る平腹に少し驚く。ちょっとした喧嘩なら珍しくもない頻度でするけれど、今までにコイツがアタシに怒鳴った事は少ない気がする。
何故か怒鳴られたのに言い返そうとは思わなくて、代わりに溜息の様な重たい息を吐いた。

「!?」
「……馬鹿かお前は。」

"オレの事嫌いなの"なんて言ってきたけれど、そんなもの返事はNOに決まっているだろうに。

「お前の事が嫌いなら、お前の腕なんてもいででも離してるわ。」
「え、」
「はー……お前に手当してもらいたくないんじゃねえよ。まぁお前がしたら爆発させそうだとは思ってるがな。」
「ひどくね!?オレ爆発させたことはねーよ!」
「比喩だ、比喩。」

爆発させそうだから嫌なのも本音だが、普段他の奴らから姉のように頼られているアタシが弱った姿を見せたくなかっただけなんだ。尤も、それをコイツに言ってやる義理は無いけれど。
いつの間にか離れていた平腹の腕を掴み、アタシはそのまま歩き出す。

「え、何何!?どっか行くの!?」
「医務室だよ馬ァ鹿。お前が手当してくれるんだろ?」
「……!おう!」

途端に機嫌がよくなる平腹に思わず頬が緩む。平腹は後ろから着いてくる形になっているから、きっと見えてはいないだろう。

アタシが人に傷の手当をさせるんだ、ちゃんとやらねぇとどうなっても知らないからな?

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