「……腹減った」 「二十二時ですからなー。健全な思春期男児は食べ盛りゆえ仕方ないでござるよ。あ、宝玉出た」 「は?うらやま。何か食べるにしても買いだめしてたやつ切らしたしなぁ……」 イデアの部屋で狩猟ゲーのマルチプレイを続けて早数時間。気付けば二十二時と夜も更け、夕飯を済ませたにも関わらず胃袋が盛大に空腹を訴えてくる。普段ならば自分が購買でいくつか菓子類を調達してからイデアの部屋に行くのだが、今日は食堂でオクタヴィネル寮生(自分よりでかくて正直びびった)に何故か知らんが絡まれたせいで約束の時間に遅れそうになってしまった為、調達することが出来なかった。別に少しくらい遅れてもいいんだが、自分が遅れると青い炎が恨めしそうに爆ぜながら待ちくたびれたと言ってくるので、なるべく時間通りに向かいたかったのだ。 だけど明日は日曜で授業はない。このまま朝までコースだろうし、何かしらは食べないと自分もイデアも朝までもたない。 「購買行くか」 「えー……自分この時間に外出るの嫌なんですけど」 「イデア絶対途中で腹減ったって言うだろ……今日お菓子買えてないんだって」 「まぁそうですけど……宝玉耐久コースになりますぞ」 「望むところですわ。ほら行くぞ」 「はーい……」 のろのろと立ち上がるイデアに彼の財布を持たせる。何だかんだいっても最終的には着いてくるあたり、空腹には逆らえないみたいだ。のんびり自分の横を着いてくる姿を見ればいつも通りの猫背だが、青い炎はゆらりゆらりと揺れている。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「何食べる?イデア」 「夜中となればジャンクフードで決まりっすわ〜。あ、このピザよさげでは?」 「腹減ってると何でもうまそうに見えてくる……」 こうして夜食を求めてくる生徒の為に、この学園の購買は遅い時間まで営業してくれている。日付を越えれば自販機しかないけれど。辺りを見ればさすがにパン等は日中に売れ切って残っていないが、棚に並ぶポテチや冷凍されたピザを見ると「早く食わせろ」とでも言わんばかりに腹の虫がぎゅるりと薄暗い購買に響き渡る。 「エス氏腹減り過ぎでは?」 「自分でも驚いた」 自分の見事な腹の虫は案の定イデアにも聞こえていたようで、真っ青なルージュに飾られたかの様な唇が愉快そうに三日月を描いている。オルトくん以外と接することを好まない繊細な神経をした彼だが、仲良くなれば存外喜怒哀楽は豊かなのだ。コミュニケーションの難易度が些か高すぎるが、陽の者と陰の者では性質が違うので仕方ない。自分だってケイトやスカラビアの寮長くんと話すのは正直遠慮したい。 「自分の腹が限界なので今夜は朝まで宴です」 「草。望むところっすわ」 事情は違えど同じような存在であったからこそ、私と彼はこうして夜中に集まるような関係性を築けているのだろう。 「さっさと拙者の部屋戻って宴にしますかぁ」 「待ってポテチかピザで迷ってる」 「両方買えばいいじゃん……。ほらエス氏行くでござるよ」 「今行くから置いてくのはやめてくれイデア。待って待って」 ポテチとピザの入った袋を揺らしながら、先を行くイデアに駆け寄る。彼の持つ袋を覗き込めば自分と同じような物が入っていて、思わず口角が上がる。 さて、夜はこれからだ。 prev top ×
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