2017/12/21
仕事も終わり、家に帰ってもそこに龍之介の姿はなくて。当たり前だ。TRIGGERは現在進行形でツアー真っ最中なのだから。わかっている筈なのに、家主が不在の部屋にいると心が寂しさでたまらなくなる。ふとスマホを開くと、ニュースには彼らの公演が行われているという旨の記事。「早く帰ってきてよ」なんて呟いて、匂いが残るソファーへ体を沈めた。

旦那が編集に掛かり切りで構ってくれないのが何処と無く寂しくて、デスクに向かう大きな背中に指で「構って」と書いてみた。そしたら「押してあかんのなら引いてみな作戦、ってな」なんて私を見てにやけながら言うから腹立たしくて、眼鏡を奪った。「やっと構ってくれた」なんて、言ってやらないんやから。

繁忙期なお陰で輪をかけて忙しく、その上無能な上司のせいで俺のフラストレーションは最大値に達していた。癒しが欲しい、そう思いながら我が家に帰れば、「おかえり」と迎えてくれる嫁さん。台所で俺の夕飯であろうシチューを温め直している姿を後ろから抱き締めれば、じわりと伝わる彼女の体温が俺の冷え切った心を溶かしていった。

正直、独り身で生涯を終えてもいいと思っとった。けど、今俺の隣には、愛しい愛しい嫁さんがおる。桜の花びらに血を一滴落とした様な、薄紅色の瞳を持つ彼女。長く一緒にいて、ようやく気付いた俺の気持ちにあたたかい微笑で応えてくれた彼女がとにかく愛しくて、読書している彼女の髪へ唇を落とした。

「アル」
そう呼んで振り返った彼女は薄紅色の瞳を微かにふるわせ、今にも泣きそうな顔をしていた。いつもそうや。何でも自分で背負い込んで、俺らに預けようとせえへん。秘書官だから、とか書記長だから、とか関係あらへんのに。無性に悔しくなって、少し荒っぽく彼女の小さな身体を抱き込んだ。

「猫か」
まるで腹を見せる様な姿勢で寝ている彼女の額をこつ、と小突く。ふと、前に誰かが言っていたことを思い出した。猫が腹出して寝るのは、リラックスしているからだという。一人で寝ると必ず丸く縮こまって寝る普段の彼女を思い出し、小突いたことで漏れた彼女の小さな呻き声さえ愛惜しくなった。




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