Straight To Video | ナノ
31
―――それはまるで自分のことじゃないか。
膝の上で丸めた拳に、俯く血の気の失せた顔には脂汗が滲む。
ついさっきまでは笑顔だったのに。
クリス達が現れ小さな談話室でソファーに掛けて向き合う形で話は始まった。レオンから既に聞いていたが、彼らからバイオテロを専門としていることを第一に話された。
話の進行に連れて彼女の真っ暗な心境に小さな灯火が宿る。希望を持って、二人に身に起きた悪夢を話せば本当に信じてもらえて、根本から問題を解決できるかもしれない、そんな感情が沸々と込み上げてくる。
名前が口を開こうとすると、それよりも先にジルは彼女に一枚の写真を差し出して見せた。
「××シティの○○病院よ。知ってる?」
知ってる。ホームステイ先の地元の病院。名前は黙っていたがジルは彼女の目に出た確かな反応を見逃さない。
次はショッキングな写真かもしれないけど見てほしい、ジルはさらに数枚取り出して並べる。
名前の視線は背けたいのにその写真に釘付けになった。
見せられた被写体はB.O.W.。
あの日見た自分に似た姿をした化け物もいる。記憶が過った。どこかで聞いた呻き声のような咆哮はこいつらだったのか…?
ここにきて話の流れが変わった。
「信じられないだろうが元は人だったんだよ」
雪崩が人を飲み込む勢いで、パズルのピースを一つずつ埋め込まれる感覚で当てはまっていく名前とB.O.W.との共通点。彼女は咄嗟に口から出かけた言葉を歯で磨り潰した。
兵器として自我を失った彼らの行く末の悲惨さに吐き気を催し、内側から潰されそうになる感覚に襲われ、酷い耳鳴りに頭痛、目眩と起きる症状が追い討ちを掛ける。
なんてことだ。
クリス達にとって殺傷対象なる敵は目の前に座って話を聞いている私。
「名前!」
『――――っ!?』
クリスに揺すられて名前は我に返る。部屋にジルがいなくなっていた。
「大丈夫か…?」
隣の席へ腰掛け、クリスは彼女の頬を撫で付けつけるように触れると、冷たい汗で肌はじとりと手に吸い付き目を見開いて怯えていた。
まさか自分に怯えている?
安心させたくて撫でていると名前はカラカラに乾いた青い唇を結んだ。
「何か…飲む物を取ってこようか…」
席を立ち部屋を出ようとして腕に掛かる小さな重み。名前が彼を引き留めた。
「……名前?」
見上げてくる大きな瞳に波打つ自分の顔が写る。
『怖いっ…』
その静かな悲鳴とも取れる訴えは彼の胸に抉るように突き刺さった。
クリスは名前を引き寄せ抱き締める。
彼女は実体があるのに煙を抱くような感覚に止まぬ胸騒ぎ。とにかく彼は落ち着かせる事を最優先にして敢えて何も聞かずに受け入れる。
『一人でここに居たくないっ……』
―――窓のない密室、無機質な蛍光灯、あの部屋を思わせるこの空間に…
「俺はここに居るよ」
名前は彼の胸に顔を埋めて、広すぎる背中に手をまわしてしがみつく。頭の中は真っ白、こうする他何も考えられない。
子供のようにしがみついたってクリスは引き剥がさずに応えてくれるのを知っている。
守ってほしくて。すがりたくて。恐れを抱きながら彼女は自分の首を締め上げるかもしれない人間に助けを求めることを止めようとはしなかった。
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All Title By Mindless Self Indulgence
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