3


夜になり、雲の間から三日月が顔を覗かせる。サイ達は村の空き家で一晩を過ごす事にし、中で火を焚いて座っていた。焔伽は外の空気を吸いに出て行ったままだ。姫宮はその様子を見に、少し前に小屋を出ていた。

「・・・・焔伽、あんな怒ってるの初めて見た」

アカネは独り言を言うかのようにボソリと呟いた。視線は誰も捕らえておらず、ただ目の前の火をじっと見つめて膝を抱えている。今までの旅で、あんなに取り乱した焔伽を見たことはなかった。焔伽は言葉は悪いが、いつも冷静だ。

「あいつは、ああいうのが一番嫌いなんだよ。親が子を犠牲にするっていうのが・・・自分が、そうだったらしいからな」

「そう、なんだ・・・」

「先生、覚えてるだろ?」

アカネは顔をサイの方に向ける。

「・・・巴さんの事?」

焔伽と初対面の時に一緒に出会い、祟り眼の呪いにより今はもうこの世にはいない女性の事を思い出した。巴は、焔伽とサイの育ての親でもある。

「あの人が焔伽を連れてきた時、俺は6歳だった。幼い俺から見ても分かる程、あいつは怯えてて・・・同年代だった俺とは打ち解けても、なかなか先生や師匠には心を開かなかった・・・きっと、怖かったんだろうな」





草原の上に座り、焔伽は只黙って空を見上げていた。冷たい空気を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。大きな月は、何も言わずにそれを見下ろしていた。

「・・・・姫ちゃんか?」

気配を感じ、焔伽は振り返らないまま言った。姫宮は何も言わずに、焔伽の隣まで歩く。踏みしめた草の音だけが周囲に零れた。

「今夜は、月も冷てぇ」

薄青く光る鋭利な三日月を見上げて言う焔伽に合わせて、姫宮も月を眺めた。

「でも、星は暖かいですよ」

暗い空を埋め尽くす星を見て、姫宮は呟いた。そして、隣に座っている焔伽に視線を落とす。

「貴方の言った事やその気持ちは分かります・・・・少々、言い方に問題はありましたが」

焔伽は薄っすらと笑みを浮かべる姫宮を見上げて苦笑いをした。

「分かってんだよ。あいつらがガキの事犠牲にしねぇと生きていけねぇ事も、それを苦痛に思ってるって事も。覇王が関わってんなら、尚更・・・分かってんだけど、ガキの事考えると・・・俺にとってはあいつらも妖同然にしか見えなくてさ」

一息置いて、焔伽は再び口を開いた。その表情はどこか苦しそうで、姫宮はそれを黙って見つめる。

「俺がすっげぇガキの頃に住んでた村にも、似たような風習があってな。6歳くらいの時、俺にもその時が訪れた。お袋は嫌がって何度も止めようとしてたが、親父が許さなかった。連れ出された俺は、妖の住む洞窟に放りこまれたんだ」

「・・・・・・・・」

「暗くて、冷たくて、怖くて、親の事ばっか考えてた。妖が目の前に現れて、もう死ぬんだ、そう思った時・・・・お袋が、来てくれたんだ。でけぇ妖が目の前にいるってのに、武器も何も持たねぇで、俺の事抱えて必死に逃げんだよ。洞窟の入り口に俺を突き飛ばした後、お袋の姿は見えなくなった。その後、旅途中だった巴さんと晋介さんが妖を始末したんだ」

そこまで聞けば、その後母親がどうなったのか、聞かずとも分かった。音を立てずに吹いてきた風に髪をなびかせ、姫宮は目を閉じる。

「貴方には、命を捨ててでも、守ってくれる母親がいたんですね」

「お袋は俺の誇り。本気で感謝してんだ・・・だけど親父は違う。今日のあいつらと同じだ・・・小せぇガキがあんな顔して連れて行かれるとこなんてもう見たくなかった。どんな事考えてんのか、どんだけ怖ぇか、俺には分かるんだよ」

「でしたら・・・終わらせましょう?・・・あの子もきっとそれを願って、私たちに・・・」

焔伽は驚いて姫宮を見上げた。彼女の確信を得たような瞳を見ると、焔伽は自分の勘は当たっていたのだと思った。

「・・・落ち着いたみたいですね」

「ああ、頭冷えた・・・そろそろ、戻るか」

焔伽は腰を上げて、深呼吸をした。



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