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「てめぇら邪魔だ!」

「何をする気だ?!もうすぐヌシが現れる!どこの誰かはしらんが、お前こそ邪魔をするな!生け贄に手を出したら、我々が・・・・!!」

村人が言った言葉に反論しようと焔伽が口を開きかけた、その時。大きな波が起きたような水音が辺りを包み込んだ。焔伽は目を見開き、立ちはだかる村人を押しのけて数歩進む。再び水音が聞こえたのと共に、焔伽の元に赤い花びらが風に舞って流れてきた。遥か前方に見える、恐らく生け贄を縛りつけておく棒からは、千切られた縄が垂れ下がっている。飛んできた花びらを焔伽は掴み、ぎゅっと握り締める。竜太は焔伽を不安げに覗き込んだ。

「・・・・これでしばらくは、村は無事だ・・・・」

後ろで呟かれた一言を聞き、焔伽は弾かれたように振り返った。

「何が無事だ?!ガキが死んだんだぞ!てめぇら親が突き出したせいで!」

「仕方が無かったんだ・・・!そうするしか私たちだって・・・!」

焔伽は反論する村人の胸倉を掴み、自分と同じ目線まで吊り上げる。青い瞳は瞳孔が開いており、焔伽にしては珍しく、完全に我を忘れている。鋭い眼差しで睨まれ、掴まれた男は言葉を飲み込んだ。

「仕方ねぇだと・・・?親ってのは何が何でもガキを守ろうとするもんじゃねぇのかよ!てめぇらには分かんねぇんだろうな!あんな場所に一人、逃げられねぇように縛りつけられて、いつ襲ってくるかも分からねぇ妖を待ち続ける恐怖ってのは!!」

「焔伽!」

サイは焔伽が村人を締め上げている腕を掴み、黙って首を振った。サイの目を見た焔伽は舌打ちをしてその手を離す。下ろされた村人は地面に崩れ落ち胸元を押さえて咳き込んだ。

「・・・ガキが死ぬ瞬間まで考える事、分かるか?親の事なんだぞ!戻ってきて助けてくれるんじゃねぇかって、死ぬ瞬間までずっとそう思ってんだ!」

「私たちだって、自分の子は可愛いと思ってる・・・!命と同じくらい大切だと思ってるわ・・・!」

別の女が、涙を流しながらその場に崩れ落ちる。

「命と同じくらい大事だったら、てめぇの命捨ててでも妖を倒しに行けばいいだろ!アンタの言ってる事は口だけだろーが!」

「焔伽!・・・・・誰もが強いわけじゃない、分かるだろ・・・少し頭を冷やせ」

サイが言うと、焔伽は少し顔を歪ませ、早足で村の方へと足を動かした。横を通り過ぎていった焔伽を見、黙って様子を見ていたアカネと姫宮も追うように歩いていく。残された村人は、只何をするでもなく地面を見つめ続けた。



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