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妖狐の能力の高さは、尾の数に比例するという。兄達でさえ4本の尾を持った天狐という階級であるのに、末っ子である狐暮にはすでに9本。九尾と呼ばれる最上階級だった。兄達の嫉妬による嫌がらせが無い筈は無かった。


狐暮が生まれて百余年。たったこれだけの年月で尾の数が5本を上回った妖狐は千年振りになるのだという。


「狐暮!!」

木の下から兄の声が聞こえる。面倒そうに見下ろせば、降りて来いと合図していた。ため息をつき、音も立てずに地に降りる。

「…なんだ」

「手合わせ願いたいのだが」

意味深な笑みを浮かべて兄は言う。

「やるだけ無駄だ。お前では俺には勝てない」

視線を合わせずに言うと、兄から僅かに殺気が漏れたのを感じた。が、それも一瞬で消える。

「まぁそう言うな。………今回は、お前でも勝てるか分からないぞ」

感情を押し殺しているが、どこか兄の口調に喜びに似たものが見えた気がした。狐暮は仕方なく、兄について行く。



連れて来られたのは里で最も大きな祠の前。そこには他の4人の兄弟と、母が待っていた。

「…母上…」

「よく来たわね、狐暮」

背筋が凍る程美しい笑みを浮かべて母は言った。

「もっとこちらへ」

一瞬の迷いの後、狐暮は歩を進めた。

「………何…?!」

眉間にしわを寄せて立ち止まった。否、動けなかったのだ。瞬時に辺りを見渡せば、5人の兄弟が陣を作って印を結んでいる。そこから伸びた光が体にまとわりつき、身動きがとれない。

狐暮が動けないと確信すると、母はゆっくりとした足取りで近付いてきた。

「あらあら、流石の九尾でも、天狐5人の縛術には敵わないのね」

母が言うと、周りにいた兄達が笑った。赤い目で、母の青い目を見つめた。すると白い手が頬に伸びてくる。氷のように冷たい手で触れると、笑みを浮かべた。

「お前はね、生まれてきてはいけない子だったの。お前がいるせいで、誰も幸せになれない。病もはやり、滅多に来ない筈の自然災害も多発する。…悪い子ね?」

「……分かっています」

真直ぐに目を見て言うと、母は嬉しそうに目を細めた。

「そう、分かってるならいいの。悪い子にはお仕置きしなくてはね」

冷たい母の手が離れた瞬間、温かい何かが服を濡らした。


目に映るのは、目の色と同じ、赤。


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