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「どうしてお前のような子が、私の子なの…!」

もう何度聞いたかも分からない、母親からの言葉。美しい母から紡がれるのはいつも、黒狐の存在を否定する残酷なものばかりだった。

どうして…?

どうしてだろうな。


妖は体より先に知能が発達する。見た目は5、6歳の子供だが、人の子ほど親に甘えたり、世話してもらったりする事はない。それでも、他の兄弟に向けられている母の笑顔が恋しいと思わない事はなかった。

家にいても、自分なんて存在しないかのような扱い。だからと言って里を歩いても、誰もが黒狐を恐れて近付いてはこない。例え子供でも、黒狐の力に敵う者は少なかったからだ。そして何より、不幸しか呼び寄せないから。


里の隅にある小さな池のほとり。ここにはあまり里の者は寄付かない。黒狐はそこにいる事が多かった。そしてそこで、いつも横笛を吹くのだ。

一人でも出来る遊び。
毎日吹いている為か、随分上達している。

母親に聞いてもらいたい。

そう思うようになった黒狐は、母の元へ走った。



「母上、笛を聞いてもらえませんか?」

白い母を見上げて問う。

「笛…?」

「俺、横笛吹けるんだ!母上にも聞いてもらいたく…」

黒狐が横笛を見せた瞬間、笛は勢い良く弾け飛び、渇いた音を立てて地に落ちた。

「お前のくだらない遊びに付き合う時間なんて無いのよ、狐暮。そんな事でいちいち呼び止めないでくれるかしら」

冷たい言葉を残して去って行く母の背をじっと見つめ、手を握り締めた。

叩かれた手が、痛む。

だがそれよりも胸の奥の痛みが遥かに強く、飛ばされた笛を抱き締めてうずくまった。











水面に映る自分。
母や兄弟、里の者達のように白い髪は映らない。見えるのは、灰掛かった薄暗い色だけ。

どうして、自分だけが……

狐暮は石を拾い上げ、水面の自分を睨み付けると、勢い良く投げ付けた。自分の姿は消え、波紋が広がる。


必要とされない、むしろいない方が幸せな存在。


誰も頼れないのなら、残るは己のみ。


再び映し出された己の顔は、何かを決意した風に見えた。


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