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キールの言ったことは、最もだと思う。私は私であって、アリアではない。アリアの望みが私の望みであるかと聞かれても、決してそうではない。それはきっと、レオンも同じなのだろう。彼は彼の人生を歩んでいたのに、それが前世の強過ぎる思いの為に変わってしまった。
私は記憶を見てもアリアに介入されたりはしない。だけどレオンはずっと、先程のような思いをしてきたのだろう。
前世も現世も同じ自分なのに、どうしてこうなってしまうんだろう。
それほど、ゼフィランサスは強い思いを残して死んだのだろうか。
キールを見ると、何とも言えない複雑な表情をしていた。
先程ゼフィランサスはキールに殺されたと言っていたけれど、そこにもきっと理由があるのだろう。対峙した時のキールの目は、とても悲しい、辛い色をしていた。ゼフィランサスとは仲が良かったのかもしれない。
「俺の心がゼフィランサスよりもっと強ければ、体を乗っ取られたりしないんだろうが…」
「そいつは、かなり大変だと思うぜ。ゼフは一度決めたら絶対に曲げねぇ性格の奴だった」
ましてアリアのことなら余計だと、キールは言った。ならどうすればいいんだろう。
このままではレオンはずっと前世の悪魔の存在と戦いながら生きることになる。またいつゼフィランサスが出て来るかも分からない。
「アリアなら…ゼフィランサスを止められるのかな」
ボソリと呟くと、キールは少し考えて、可能性はあると言った。だけどその為には、私がアリアの記憶や気持ち、願いをしっかりと把握しなくてはならない。
先程のように、いつ記憶が見られるか分からないから、理解するまでの期間の予測が出来なかった。
「…ゼフィランサスは、今のところ出てくる気配はない。大丈夫だ」
今までのように生活することは可能だと、レオンは言った。
「またアイツが出てきたら、俺が止めてやるよ。…何度でもな」
キールはなにかを思い出しているのか、険しい顔つきのまま言った。キールが止めなければ、またゼフィランサスはレオンの姿で人を斬るのだろう。それだけは回避したい事態だ。
状況はなんとか理解した。
レオンと、その前世ゼフィランサスのこと。私がアリアの生まれ変わりであること。
これから始める魔法の訓練のこと。
一度に色々あったけれど、そのどれにも私が関わっている。なら、その責任は果たさなければ。
足手まといにはなりたくないもの。覚悟をしなければならないことばかりだけど、逃げ出す気は毛頭ない。
少し疲れたのか、レオンもキールもうとうとしている。
暖かい日差しの中で、今はただ、静かに眠らせてあげようと思った。
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