5


一通り話が済んだ時、鈍い音がして、広間の扉が開いた。そしてそこに立っていたのは、先程まで意識を失っていたレオンだった。私はソファを立ち、駆け寄っていく。
瞳の色は元の翡翠色に戻っている。ということは、今いるのはレオンだ。

「レオン、大丈夫?」

「ああ、迷惑かけて済まなかった」

彼の言う通り、身体はもう大丈夫そうだったが、レオンは浮かない顔をしていた。責任感の強いレオンのこと、先程のことを悔いているのだろうか。

「セイラ、ちょっといいか」

何時にも増して真剣な瞳で見つめられ、私は黙って頷いた。クラウス達に軽く挨拶をして、広間を出ていく。
レオンは屋敷の中をどんどん歩いて行き、やがて中庭で足を止めた。

「…キール?」

中庭には、既にキールがいた。レオンが呼んだのだろうか。
キールは中庭に置かれてあるテーブルへ移動し、座った。レオンもそっちへ向かい、私は合わせてイスに座った。
静かで、鳥のさえずりしか聞こえない。

「俺のことについて、話さなければなりません」

沈黙を破ったのはレオンだった。彼はやはり、ゼフィランサスについて何かしら知っているのだろう。

「俺はお前とセイラがゼフとアリアの生まれ変わりなんじゃねぇかと思ってる」

キールが言うと、レオンは自分もそうではないかと思っていた、と頷いた。

「俺は人間界の王家に使えていました。幼い頃から悪魔が自分の中にいるのは分かっていて、時折その悪魔の力を使ったりもしていました」

ならレオンは、もうかなり長い間ゼフィランサスを知っていたのだろう。

「力があるのは良かった。王家を守れましたから。しかし、ある日俺の中の悪魔…ゼフィランサスが、体を乗っ取った」

声を聞いたり、記憶を見たりすることはあっても、乗っ取られたのはそれが初めてだったらしい。

「何が起きたのか分からず、我に返った時、周りには俺の部下が惨殺されていました。俺の剣は、彼らの血で真っ赤になっていて、これは俺がやったんだと思いました」

表に出て来たゼフィランサスが、レオンの率いる隊の隊員を殺したらしい。レオンはその罪として、人間界を追放されていたらしく、その後魔界でキールと出会ったのだと、レオンは語った。

「時折夢で見るゼフィランサスはしきりにアリアを求めています。だから俺はアリアを思いだそうとするんですが、浮かぶのは、何故かセイラの姿で…」

「私…?」

それは私が、アリアの生まれ変わりかもしれないからだろうか。

「セイラがここに来てから、ゼフィランサスの感情が強くなったんだ。俺も君に会った時、初めて会った気がしなかった」

私が、ずっとレオンに感じていた安心感や存在感…それは、アリアがゼフィランサスを思う心だったのだろうか。私も無意識に、レオンには前から知っている何かがあると感じていた。そして、会った事もないゼフィランサスの姿を断片的に見る。

「私、火が怖いの」

「アリアは火あぶりになったと、夢でゼフィランサスが言っていた」

「さっき、ゼフィランサスの記憶を…ううん、アリア視点の記憶を見たの」

知るはずのない過去を知っている。知らないはずの感情を知っている。アリアの生まれ変わり…それはもう、認めざるを得ない真実なのかもしれない。

「死後300年で、お前らはまた出会ったんだな。…けど、レオンはレオンでセイラはセイラだ。前世が現世の人生を左右するのはおかしい」


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