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「殿下!」

騒ぎを聞きつけたのか、仕事から戻っていたらしいクラウスが二階から飛び降りてきた。一部始終を聞いていたのだろうか、レオンがゼフィランサスという人物に乗っ取られたことを知っていた。

「お怪我はありませんか」

「ああ、問題ねぇ」

「セイラちゃんも大丈夫?」

「うん、私は平気」

レオンは大丈夫なのだろうか。
体調が悪そうにしていたのは、ゼフィランサスに乗っ取られる何かを感じていたのかもしれない。
そっと手に触れてみた。
その瞬間、頭の中を何かが過ぎった。

これは…映像、だろうか。なんだろう、ベージュの髪、黒い服を着ている男の人がいる。だけど顔は見えない。口許が優しく微笑んでいるのが分かる。伸ばされた手を、目線からして、私がとっていた。
そして場面が変わったと思ったら、赤い、炎。

「嫌っ…!」

ビクッと肩を震わせ、私は意識が戻った。見上げると直ぐ横に、クラウスの顔があり、肩を抱かれていた。心配そうに見下ろしている。

「大丈夫?セイラちゃん、急に気を失っちゃったから…」

「え…?」

私、気を失ってたの…?
辺りを見渡すと、キールもほっとした様子で私を見ていた。

「ごめんなさい…私は大丈夫」

レオンに視線を戻すと、まだ気がついていなかった。
彼の額に手を当てた直後、淡い緑色の光が表れ、クラウスは目を見開いて私の肩を掴んだ。

「セイラちゃん…?!」

「えっ、何?」

「お前…治癒能力があったのか」

隣りからキールが言い、クラウスは頷いた。治癒能力…ってなんのことだろう。首を傾げると、クラウスとキールは顔を見合わせ、クラウスは言った。

「治癒能力は、傷を癒す力のことだよ。セイラちゃん、気付いてない…?」

「わ、私?!そんな力、知らなかった…」

治癒能力なんて。そんな魔法みたいなこと、私に出来たの?でも何故今急に出来るようになったんだろう、今までそんなことはなかったのに。


私は物心ついた時から、炎が怖かった。料理に使ったり、蝋燭の炎は大丈夫だけど、火事や焚き火…大きめの炎を見ると体の震えが止まらなくなる体質だった。さっき、視界が炎でいっぱいになった恐怖がまだ体に残っている。

「セイラちゃん、大丈夫?」

「…うん…あ、あのね、私…さっき気を失った時、変な映像を見たの」
「変な映像?」

私はキールに向き直って、見たもの全てを話した。
するとキールは明らかに顔色を変え、レオンを…ゼフィランサスを見た。

「お前が見たそいつ…ゼフィランサスだ」

「え?!」

あのベージュの髪の男性がゼフィランサス…?じゃあ、レオンの中にいるのはやっぱり魂なのか。

「お前も…レオンも、もしかして生まれ変わりか…?」

生まれ変わり。
死んだ人の魂が、再び別の人間として生まれてくること。

「私、が…誰の?」

「……アリア」

アリア…さっきゼフィランサスが私に向かって言った名前だ。

「アリアって…どんな人だったの?」

恐る恐る訪ねると、キールはアリアのことについて教えてくれた。彼女は私と同じ聖女で、ゼフィランサスの恋人…妊娠していて、もうすぐ妻になる人だったらしい。
だけど、悪魔と禁忌の交わりをした為に火あぶりで処刑されたこと。

それを聞いて、背筋がゾクっとした。
私は前の生で、火に焼かれて死んだのか。だから今もこんなに火が怖いのだろうか。私はアリアを覚えていないのに、レオンはゼフィランサスを覚えている…というより体を共有している。
どうしてなんだろう。

「取り敢えず、場所を移そう。レオンは部屋で休ませて、セイラちゃんもちょっと安静にしないと」

クラウスの意見に賛成し、キールはレオンを担いで、部屋に連れて行った。残された私達は、ひとまず広間に行くことになり、ロビーを後にした。



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