1
屋敷のロビーで対峙するキールとレオン。でもレオンはレオンじゃない。赤い瞳、口調や声もいつものような優しい雰囲気ではなくなっている。キールは彼をゼフィランサスと呼んでいた。
二人は、知り合いなのだろうか。
私は状況について行けないままキールの後ろに立ち尽くしていた。
「ゼフィランサス…」
「覚えていたようで何よりだ、キール」
レオン…いや、ゼフィランサスは冷たい笑みを浮かべて剣を真直ぐキールへと向けた。
どういうことだろう、これは所謂多重人格というものなのか。でもレオンの人格が変わったというより、全く違う人物が表に出ているように思える。レオンの体に、もうひとつ魂が入っているみたいだ。
「ずっと探していた…アリア」
そう言ってゼフィランサスが見たのは、私だった。
「え…?」
なに?アリアって誰…?
どちらにせよ私はアリアではない。彼は人違いをしている。
「あの、私…!」
「こいつはアリアじゃねぇセイラだ。視力落ちたか?」
少し身を乗り出した私をキールは右手で制する。これ以上前に出てはいけないと言われているのだ。
黙ってそれに従い、ゼフィランサスを見つめた。
「俺がアリアを間違う訳がない。そこを退けキール」
「どこをどう見たらこいつがアリアなんだよ!」
アリアとは誰なんだろう。
キールとゼフィランサスは知っているみたいだけれど、私に似てる人だったのだろうか。
「見た目は違う。だが魂は間違なくアリアのものだ…!」
「意味分かんねぇよ」
「キール、お前は俺を殺しただけでなくアリアまで奪うつもりか!」
ゼフィランサスが鋭い殺気を溢れさせる。この人はキールを恨んで死んでいったのだろうか。でもその気配や殺気の鋭さとは裏腹に、瞳は悲しげな何かを浮かべいるような気がする。矛盾しているような…
私の、思い過ごしかもしれないけれど。
そして、この人が現われてから収まらない胸騒ぎ。自分の中の何かが、あの人に反応しているみたいだった。喉まで出かかっているのに、その思いが言葉にならない。
分からないことばかりだけれど、今は彼をなんとかしなくては。
キールを見上げると、どうやって彼を止めるか考えているようだった。傷付ければ、それはレオンに返ってしまう。体を乗っ取られているだけで、レオンは生きている。本気では戦えない。
斬りかかってきたゼフィランサスに、キールも動き出した。剣撃を避けつつ、相手の振りが大きくなる瞬間を見計らっているようだった。
ゼフィランサスを見るキールの表情も悲しげで、二人には、きっとなにかあったんだろうと思った。
キールが壁に追い詰められ、ゼフィランサスが剣を振り下ろした瞬間キールはその一撃を避けて腹部に一発拳を打ち込んだ。
苦しそうな呻き声が聞こえた後、ゼフィランサスはふらついた。キールがそれを支えて、壁に凭れさせるように座らせた。どうやら気絶させたようだ。
ひとまず安心して、私は二人に近付いた。膝をついて覗き込む。目を閉じていて今はレオンなのかゼフィランサスなのか、どちらか分からない。キールを見ると、やはり物悲しい、やり切れない表情をしていた。
[ 55/60 ][*prev] [next#]