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屋敷のロビーで対峙するキールとレオン。でもレオンはレオンじゃない。赤い瞳、口調や声もいつものような優しい雰囲気ではなくなっている。キールは彼をゼフィランサスと呼んでいた。
二人は、知り合いなのだろうか。

私は状況について行けないままキールの後ろに立ち尽くしていた。

「ゼフィランサス…」

「覚えていたようで何よりだ、キール」

レオン…いや、ゼフィランサスは冷たい笑みを浮かべて剣を真直ぐキールへと向けた。
どういうことだろう、これは所謂多重人格というものなのか。でもレオンの人格が変わったというより、全く違う人物が表に出ているように思える。レオンの体に、もうひとつ魂が入っているみたいだ。

「ずっと探していた…アリア」

そう言ってゼフィランサスが見たのは、私だった。

「え…?」

なに?アリアって誰…?
どちらにせよ私はアリアではない。彼は人違いをしている。

「あの、私…!」

「こいつはアリアじゃねぇセイラだ。視力落ちたか?」

少し身を乗り出した私をキールは右手で制する。これ以上前に出てはいけないと言われているのだ。
黙ってそれに従い、ゼフィランサスを見つめた。

「俺がアリアを間違う訳がない。そこを退けキール」

「どこをどう見たらこいつがアリアなんだよ!」

アリアとは誰なんだろう。
キールとゼフィランサスは知っているみたいだけれど、私に似てる人だったのだろうか。

「見た目は違う。だが魂は間違なくアリアのものだ…!」

「意味分かんねぇよ」

「キール、お前は俺を殺しただけでなくアリアまで奪うつもりか!」

ゼフィランサスが鋭い殺気を溢れさせる。この人はキールを恨んで死んでいったのだろうか。でもその気配や殺気の鋭さとは裏腹に、瞳は悲しげな何かを浮かべいるような気がする。矛盾しているような…
私の、思い過ごしかもしれないけれど。

そして、この人が現われてから収まらない胸騒ぎ。自分の中の何かが、あの人に反応しているみたいだった。喉まで出かかっているのに、その思いが言葉にならない。

分からないことばかりだけれど、今は彼をなんとかしなくては。
キールを見上げると、どうやって彼を止めるか考えているようだった。傷付ければ、それはレオンに返ってしまう。体を乗っ取られているだけで、レオンは生きている。本気では戦えない。

斬りかかってきたゼフィランサスに、キールも動き出した。剣撃を避けつつ、相手の振りが大きくなる瞬間を見計らっているようだった。
ゼフィランサスを見るキールの表情も悲しげで、二人には、きっとなにかあったんだろうと思った。

キールが壁に追い詰められ、ゼフィランサスが剣を振り下ろした瞬間キールはその一撃を避けて腹部に一発拳を打ち込んだ。
苦しそうな呻き声が聞こえた後、ゼフィランサスはふらついた。キールがそれを支えて、壁に凭れさせるように座らせた。どうやら気絶させたようだ。

ひとまず安心して、私は二人に近付いた。膝をついて覗き込む。目を閉じていて今はレオンなのかゼフィランサスなのか、どちらか分からない。キールを見ると、やはり物悲しい、やり切れない表情をしていた。


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