6


俺の右腕は、ゼフィランサスの胸を完全に貫通していた。ゼフィランサスは、動かない。俺はゆっくり腕を引き抜きその場へ横たえる。

浅く呼吸をするゼフィランサスの頬に、なにかが落ちた。何度も、何度も、雨のように落ちるそれは、俺の涙だった。生まれてこの方、涙なんて流したことがなかったが、こんなにも、悲しいものなのか。

「…妹まで泣かせやがって…何やってんだよ…んっとに、駄目な兄貴だな……」

声が震える。
なにか言おうとしたのだろうか、ゼフィランサスの唇が僅かに動いた。
だがその言葉が発せられることはなく、静かに目を閉じた。

「…ゼフ…!」

揺さぶっても目を開けることはない。力無く横たわった体を抱き締めると、涙が溢れた。それと同時に、雨が降り始める。

なんで、どうして。
俺はお前を殺したくはなかったのに。

ゼフィランサスと出会った日から今までのことが、一気に頭の中を駆け抜けた。
初めての友で、俺に色々な事を教えてくれて、支えてくれた。
この間まで普通に存在した楽しかった時間は、もう戻ってはこない。もう話すことも笑うことも出来ない。
どれだけ泣いても、涙が止まることはなかった。

失うのは、こんなにも苦しいことなのか。ゼフィランサスも、こんな思いだったのか。
俺はどうしたら良かった?
なにが一番良い方法だったんだろう。
殺さなければ殺されていたから、友を殺したのか?

なにが正しいのか分からない。
誰ひとり幸せになれなかった結末。
悲痛な叫びが辺りにこだました。

悲しみの雨はその後三日間、止むことはなかった。



ゼフィランサスの葬儀が終わった後、ラナンキュラスは名前をラキと改め、血の護に加わった。ラキはゼフィランサスの件で、兄の死に泣きながらも感謝を述べてきた。

「兄のしたことは、道を外れていました…これで良かったんです」

「……そうか」

俺にはこれで良かったかなんて分からない。



分からないままだ…







今も








「お前は…本当に…」

俺に切っ先を向けるのは、ゼフィランサスなのか。何故レオンの中にお前がいるんだ。お前は俺を恨んでいるのか。
飛び出して行きそうなセイラを後ろへ庇い、赤い瞳を睨む。
間違いない。
姿が変わっても、見間違える訳がない。
鋭くて威圧感のあるまなざし。

かつての親友。

俺は今度はどうすればいい。もう殺すことは出来ない。
そうすれば、レオンも死ぬことになってしまう。
緊迫した空気の中、300年振りにゼフィランサスと対峙をした。



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