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あいつは、他の奴とは少し違ってた。


「キール殿下、早くこちらをお召しになって下さい…!」

「いやだ!俺はパーティーなんかには出ねぇ!」

子供の頃から、時期魔王だの、英雄の息子だの言われ続けているのが嫌だった。周りの大臣が俺を誇らしく思う反面、俺が悪魔と人間のハーフでありながら王族ということを憎く思っていることも、子供ながらに分かっていた。

「今日のパーティーはキール殿下が主役なのですよ」

俺の世話をしていたのは、主に血の護達だった。一人にならないよう常に側にいて、話し相手になってくれて、遊んでくれて…護は子供の俺にとって兄みたいな存在。俺のことを考えていない大臣達とは違い、護は常に俺のことを思って行動してくれた。

けど、それでも、心の空白が埋まることはなかった。

そんな時だ。アイツが現われたのは。

「おい、何を騒いでる」

「ゼフ…!妹の世話はもういいのか?」

クシナが訪ねると、その男は頷いた。15、6歳のクシナやアシュレイやクラウス達より、そいつは5年ほど年上に見えた。静かで、威圧感があって…あの時の俺にも、こいつは強い奴なんだと分かった。

「ラナンはもう8つだ。留守番くらい出来る…で、何の騒ぎだ。もうすぐ時期魔王の誕生パーティーが始まる時間だろう」

「キール殿下はパーティーに出たくないとおっしゃるんだ」

アシュレイの言葉を聞くと、そいつは俺を見下ろした。やばいと思って逃げ出すと、目の前を何かが通過した。俺は反射的に足を止め、目の前に突き刺さったのが刀であることに気付く。

「クソ餓鬼が」

男はツカツカと俺の方へやって来て、固まっていた俺の襟を摘み上げた。

「離せっ!このヤロー…!」

「ゼフ!殿下に当たったらどうするんだ…!」

刀を投げたことに冷や冷やしたのか、クシナは少し声を荒げて言った。だがそれを気にも止めない様子で、男は俺を護に突き出す。

「当てるようなヘマ、俺がするか」

「やめろ離せっ!誰だよお前!」

抵抗しても、男にとっては何の障害にもならないらしい。初対面の男に軽くあしらわれるのが悔しくて、摘み上げられた格好のままそいつを睨んだ。
男の赤く鋭い目が俺を見下ろし、その時ようやくとまともに目が合った。

「彼は我らと同じ血の護のゼフィランサスと申します、キール殿下」

言いながら、アシュレイは俺を着替えさせていく。堅苦しい正装。キラキラする装飾品が鬱陶しい。

「今日はお前の誕生パーティーだと聞いたが?キール」

俺は抵抗していた手をぴたりと止めた。

「ゼフ、殿下を呼び捨てに…」

「こんな王座を継ぐ意志のない者、キールで十分だ」

俺を見下ろすその目は自信たっぷりで、偉そうで、馬鹿にされてると苛々した。
でも、初めて名前で呼ばれた衝撃が強くて、そんなのはどうでもよくなっていた。誰もが俺を名前で呼ばない。殿下、殿下と俺を王家に縛り付ける。ゼフィランサスは、周りの者が破らない壁を軽々と踏み越えてやってきた。

俺はずっとそういうのを求めてて、身分も主従もない何かに憧れてて…敬語はいらないと言っても、護達ですらそこは受け入れてはくれなかった。
だけどゼフィランサスは、同じ血の護でありながら他とは違う何かがあった。
こいつは、俺が欲しがっていたものを、持っている気がした。

それ以来、俺はゼフィランサスが訪れる度、あいつに会いに行くようになった。



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