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「魔界にも人間はいるの?」
「ああ、レオンもそうだが、悪魔に遭遇しても対抗出来る人間は魔界にも住んでいる。だがやはり大半は人間界を出ることはないな」
魔界には、魔物がいる。
言葉を話す知能を持っていない悪魔を魔物と呼ぶらしい。
キール達みたいに、人型且つ言葉を話す悪魔は、むやみに人間を襲うことはないのだという。
でも魔物に迂闊に近付くと命を奪われてしまうことが多いようだ。
「あと人間はハンターとかだな。ハンターは俺たち悪魔を殺して、得た獲物を売ることで金を稼いでいる連中のことだ」
悪魔にも沢山種類がいる。毛皮を持つもの、爪や牙、時には眼や肉や…様々なものが売れるらしい。そうやって狩りをして生活をしている人間もいるみたいだ。
ヴァンパイアも標的にされることがあるという。
「ヴァンパイアの血は、治癒能力が高い。牙も加工することで短剣になったりもする。だからたまにハンターに狙われる事がある」
話を聞くと、護の皆はハンターと闘った経験が少なからずあるみたい。アシュレイも何度か撃たれたことがあるらしい。
…銃か…私の時代にそんな危険なものがないだけに、武器が普通に存在するというのは多少恐怖だった。
「ハンターは悪魔を確実に殺す為に、銀の武器を持っている。銀銃・銀剣…あとは聖水なんかも持っているな。銀以外の武器で、人間が悪魔に傷を負わせることは出来ない」
「あ…じゃあレオンが持ってる剣も、銀で出来てるの?」
「そうだ、魔界に住む以上、武器は銀以外では意味を成さない」
なるほど…。ということは、普通の銃で撃たれても悪魔達には効かないということなのか。護身用に、銀の短剣を作ってもらおうかな…。使えないけど。
「取り敢えず、簡単にだが魔界全体の説明はした。まだまだ教えることはあるが…今日はここまでにしてくれ。暇そうな奴を捕まえたら教えてくれるだろう」
そうだ、すっかりお世話になってしまったけど、アシュレイは元々なにかを調べたくてここに来たんだろう。
「ありがとう、時間を割いて教えてくれて。お陰で魔界のことが少し分かったわ」
「………別に…」
少し照れているのか、アシュレイはこちらを見ようとはしなかった。
読めるところだけでも自分で読もうと、私はこの本をしばらく借りることにした。
「ラグナ!」
アシュレイが呼ぶと、今までチィに本を読んでいたラグナが向かいのイスに座る。チィはテーブルの隙間を抜けて、図書室を出て行った。
「…今回の件だが」
「スパイのアレだよね」
二人は何やら仕事の話をしているらしい。私はここにいない方がいいのかもしれない。
「あの、聞かない方がいいよね?」
二人は顔を見合わせた後、別に構わないと首を振った。確かに聞いたところで私に理解は出来ないけれど。
いてもいいのなら、もう少しここにいることにした。
「次のお仕事…二人一緒なの?」
「うん、アシュレイと僕で敵のアジトに潜入捜査だよ」
「不安で…不安で不安だが」
アシュレイが言ってるのは、恐らくラグナ君のおっちょこちょいなところの事だろう。しかし当のラグナ君は平気そうに柔らかく笑った。
「酷いなぁ、大丈夫だよ」
「現場でのおっちょこちょいは止めてくれよ」
「分かってる」
スパイ任務っていうのは、敵地に忍び込んで情報を聞き出したりするもの。相手に正体がバレることは、とても危険なことだと私にも分かる。
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