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「あ、れ…アシュレイ?」

そこに立っていたのはアシュレイだった。何かの資料だと思われる紙の束を片手に、無惨に散らばった本を見下ろしていた。

「ラグナ…お前はおっちょこちょいなんだからもう少し気を付けろ」

「あはは、ごめん」

ラグナ君は苦笑を浮かべてチィを抱き上げると、本の山から少し離れて降ろした。

「あの、梯子いるよね?」

この中の誰も、いや、普通に考えてあの上の段には届きそうにない。巨人なら届くかもしれないけれど…。

「必要ない」

アシュレイは落ちた本を見下ろして、右手で指を鳴らした。

「え…!?」

その直後、本が一気にバサバサと音を立てて小刻みに動き出した。アシュレイがそのまま棚を指すと、本は自ら動きだし、次から次へと棚に戻っていく。それもシリーズ物のタイトルや種類等、きっちりと元の状態に隣り合って、上から下まで開いているスペースを全て埋めてしまった。
呆気にとられてぽかんと眺めていると、一冊気になる本が視界に入った。

「あ、待って。その黒い本、読んでみたい」

上の段に上がってしまいそうな黒い本を指差して言うと、アシュレイがそれだけ私の手元に移動させてくれた。すごい…これが魔法というものなのか。

「ありがとう」

「ほんと、助かったよアシュレイ」

全ての本が棚に戻ったのを見て、アシュレイは本棚から私に視線を移した。

「魔界のことが知りたいのか」

「え、あ、うん。私何も知らないから…」

私が持っている本の表紙には、『魔界の全て』と書かれていた。これなら、この魔界のことが分かるような気がしたのだ。しかし中を開いて、私は戸惑った。
字が読めないのだ。勿論読める字も沢山あるけれど、所々私が使う文字とは違う文字で書かれていて、その部分を読み取ることが出来ない。首を傾げた私を見て、アシュレイが口を開いた。

「魔界の本には悪魔言語で書かれたものがある。お前には読めないだろう」

「うん…何が書いてあるのかさっぱり…」

「……。こっちへ来い」

アシュレイはそう言って、テーブルの方へ歩いていく。ついて行くと、アシュレイはイスに座り、自分の座った隣りのイスを引いた。
あれは私にそこに座れと言っているのだろう、そう思って、チィに絵本を読ませているラグナ君の横を通り過ぎ、アシュレイの隣りに腰掛けた。

「えっと…」

何を話せばいいのか分からない。アシュレイには人を寄せ付けないような独特の雰囲気があった。だから余計に何を言っていいのか分からず、私は持ってきた本をそっとテーブルに乗せた。
するとアシュレイはその本の表紙を捲った。見開きで、大きく地図が書かれている。

「これが魔界の全体図だ。今いるキール殿下の屋敷が大体この辺りになる」

…これって、もしかしなくても、私に教えてくれてる…?地図に書かれている地名等、悪魔言語で書かれているから私には分からない。だから彼は私の代わりに読んでくれているのだろうか。

「…何だ。魔界の事を知りたいんだろ」

きょとんとした私を見て、アシュレイは僅かに眉間にしわを寄せて言った。なんだか不器用な優しさが嬉しくて、自然と笑みが零れた。

「よろしくお願いします」

軽く頭を下げると、アシュレイは続きを語り始めた。まず教えてくれたのは魔界のどこになにがあるかということ。
外出許可が出たらよく使うであろう、色々なものが売買されているバザーという場所。一日に一回、何時間か開いて、勝手に閉じるヘル=ヘヴンズゲートのこと。

「魔界には人間が住む国があるの?」

「このヘル=ヘヴンズゲートの向こうは、人間界となっている。だが、それは俺たちが自然とそう分けただけで、人間界も魔界の一部だ。向こうにもちゃんと国王がいるがな」

「ここって、ゲートが開いてる間なら自由に行き来できるの?」

「ああ、ぼーっとしてたらゲートが閉まってその日は帰れなくなるがな」

私、人間界にいた方が安全なんじゃないだろうか。落ちたのが魔界側だったのが運の尽きってことなのかも…。
…ううん、こうやって匿ってもらってるんだもの、感謝しないとね。
でも、人間もいるんだと思うと、それだけですごく安心した。



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